水月 (70)


(ネタバレあり)


 攻略順を間違ってしまったようだ。那波シナリオをやったときは待った甲斐があったと思ったけど、その後の最後まで残しておいた雪さんシナリオがインパクト弱くて、全体的な印象が散漫になった。
 音楽−物足りない。絵−塗りが淡白なので硬質な感じ。一枚絵ではいいものもあったけど、全体的に『さくらむすび』での様な濃密な彩色には恵まれなかったと思う。
 文章については、『さくらむすび』の感想で書いたのと同じで、思いやり系の会話が切れがなくてまどろっこしく、分別くさい。説明するところでも丁寧すぎる感じで、全体としてもっと文章を削ぎ落とすか、漢字や硬い言葉を増やすかしてほしかった。言葉のみの投げあいではなくスキンシップを描いたところなどでは、この頭鈍めなくどい文体がうまくいっていたところもあったので、まったく悪いとは思わないけど。よかったキャラは花梨と那波、やや下がって和泉。


 シナリオ等について。一回さらっと読んだだけなので印象に過ぎないけど、かなりよかった。那波シナリオ以外はサブという感じか。那波シナリオは説明されつくされていないのがよかった(逆に雪さんシナリオは説明されすぎで、雪さんというキャラの設定が極端すぎることもあって、結末―――受け入れるか受け入れないか―――がやや安易過ぎる感じがした)。
 梓弓を引くことは、神を降ろすこともあれば魔を払うこともある、両義的な行為。祭の日に花梨が踊る舞は波と弓を描き出し、「常世」の扉が開き、夢と現実の区別が消える。この常世(各シナリオの終盤)パートで主人公がヒロインを一人選んだ後の、他のヒロインの無言の消え具合・薄まり具合には不気味なものがある。那波シナリオの場合は那波自身が消えてしまう。花梨は他ヒロインのシナリオでは夢の世界にフェードアウトして、ちゃんと戻ってこられたのか疑わしい。声のかからなかったヒロインは「現実」には成れない、ってことはまあエロゲーでは普通に行われていることなのだけど、今作ではその辺をテーマとしてあからさまに暗示しているので、シナリオのまとまり方としてはとてもきれいな感じがする。『きみとぼくの壊れた世界』のような、かすかにバッドエンドの気配が漂うハッピーエンドたち。和泉の父のような外的な力の介入でもない限り、主人公は普通の意味での現実には回帰できないから、父親は目覚めないし、記憶も戻らない。いい話だ。