- 作者: 田中ロミオ,山崎透
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/12/19
- メディア: 文庫
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ネタバレ注意。
前半も後半も、エロゲーのシステムと関係するようなところはあるけど、今回はファンタジー小説起源のもののほうが多く意識された。ジョージ・マクドナルドやイエイツの妖精奇譚。このおかしな妖精さんたちが本当にアイルランド(日本やロシアにも似たようなフォークロアはあるけど)の妖精たちみたいな習性を発揮するとは期待していなかった。「とりかえっ子」や「悪い場所」。アイヌ民話(だったっけ)にある、熊の皮をかぶって熊の国に行く話もこっち系か。
あとはタイムパラドックスの犬。これはシュレディンガーの猫を反転させたものということでいいのだろうか。これはよく分からない。何で英語で鳴くのかとかも。フォークロアでは鶏の鳴き声が朝を告げる魔除けになるけど、それも関係あるのかな。『白痴』に出てくるロバの一鳴きもなぜか思い出された。
いずれにせよ、妖精さんたちのもっとお菓子を食べたいから始まり、そのためには作れる人をクローンすればよい、そのために量子論的多世界を作る、それはエロゲー的マルチエンドシナリオの世界であり、エロゲーの主人公は無個性なタイプが多いものであり、でもたまに黒須太一みたいなのがいてセクハラされるヒロインに悶えるサービスまでついていて、でも結局無個性(野生)というのは人間以前の存在なので断片を積み重ねて人間にならなければならない、という流れであっているか知らないが、ともあれ面白かった。
前半の方はまあアルジャーノンでもいいけど、それよりは不思議の国のアリスや妖精民話のような空恐ろしさが感じられた。心の底へのダイブという点では最果てのイマにも似ている。
あとは挿絵。確かにミレーのオフィーリアは確かにそうみたいだから、そうなると、中扉は衣装から見てハムレットだろうか。妖精の国イギリスと量子論的な実存のテーマをかけているのかな。いずれにせよ、こんな雰囲気のいい絵でラノベが出るのはありがたい。
なんだか感想というよりは謎解きみたいになってしまったが、文章に関しては正直はじめはけっこう鼻についた。エロゲーと違って音楽も音声も絵もなく、注意がヒロインではなく文章に集中されるから、ついに田中ロミオを捕まえたぞとか不遜にも思った。しかしストーリーのお陰で文体にもすぐになれて、最後にはむしろ呼吸が合ってしまうのがいつものこのライターなのだった。主人公がこれで極度の人見知りというのはいまいち実感がわかないのだが、こんな引きこもりならむしろ萌えるではないか。これは決して読者への媚などではなく、会社で新規開拓とか称して押し売りみたいなことをやらされて日々自分を磨り減らしている我々に対する、田中ロミオなりのエールなのだ、というとなんか違うかな。まとめると、またもや引出しの多さを楽しませてもらった。次も楽しみです。他の人の感想でも探すかな。
- なるほど・・・。それでハムレットか・・・http://d.hatena.ne.jp/diachronic/20071220/1198138978
- ちょっと待った・・・。とどめさされた・・・orz http://d.hatena.ne.jp/sunagi/20071219/1198103592
アレとはちがう、潔白、美しかったが、すぐに別れてしまった。ってことは、どうなんだ?よく分からない。多世界云々ではない説明があるのかもしれないけど、分かっちゃうのももったいないような。・・・2ちゃんを見てようやく少し分かったかも。やはり二人の少年は別人なのかな。