何処へ行くの、あの日 (65)

(プレイ順雑感。まとまりなし)
 Fateをやった後なので、セリフの短さ・意味のなさ・掛け合いのテンポの悪さが苦痛で、なかなか入り込めずに困った。声ありのゲームにテンポのよさと気の利いた台詞回しの両立を求めるのは贅沢だったことを思い出した。同じライターさんの水夏をやったときはそんなことは感じなかったはずなんだけどなあ。
 始めてみてすぐに気が付いたことは立ち絵の線が細くて繊細なこと。特に桐李と智加子さんはとてもきれいで、声もまたいいもんだから(九条信乃さんと木葉楓さん)。広大な美術館の中、ひっそりとした小部屋で好みの絵を偶然見つけたときのように、ちょっと嬉しくなる。これがモチベーションを保ってくれてありがたい。
 過去に戻ってやり直すことという弱い人間なら誰でも考えずに入られないことがテーマ。僕も何度も考えたことがあるし、今でも時々考えてしまう。そんなことは考えても意味がないということが分かっていても、それとはそれとは別の次元で、僕の性格が定期的に要求する生理的な欲求のようなものとして、自分のほの暗い過去にあてられずにはいられないらしい。イマの沙也加なら、そんなことしていると心に穴が開くわよ、といってくれるだろうか。それはともかく、過去に戻ってやり直すというのはエロゲーのシステムのことを言っているわけでもあるわけで、おなじみの話題、おなじみの自問自答への入り口なので、ちょっとうんざりする。本作はシステム面が貧弱で、選択肢がけっこうあるのにセーブデータが6個しかないのも、そんな風に何度も行ったり来たりさせるための策略なのかと勝手に合点したくなる。


桐李
 登場順からいって初めに出てきた千尋(つまらないギャグを言う、めんどくさそうなヒロイン)のシナリオを最初に進めようとしていたのに、気が付いたら桐李のルートに進んでいた。桐李はあとでの楽しみにしておきたかったし、こんなことなら桐李のための選択肢を選んでいたものを。シナリオとしては、桐李と結ばれたあとに迷走したのがもったいない。どうせこのシナリオでタイムトリップの謎を解明しないのなら、あのまま二人でとことん幸せになって逆に不気味さを出すという、さくらむすびのやり方を見てみたかった。過去に囚われることなんて結局半分以上は気持ちの問題に過ぎないのだから、桐李が吹っ切れたように、主人公もそんな彼女を信じてさっぱり忘れるべきだった。シナリオの整合性とか伏線の回収とか、そんなくだらないことは全くどうでもいい。それらを振り切ることに自由を感じられるし(桐李の妹や父親の話題を掘り下げなかったことはよかった)、何よりも、それだけの魅力ある女の子なのだから。テーマ曲もお気に入り。


一葉/双葉
 双子姉妹という設定からのストーリーに既視感。あとエンディングが救われなくて残念。
 キャラクターとしては、苦手なボーイッシュ属性だったけど北都南さんの声がいいし、絵もきれいだし、お菓子作りが得意とか照れた表情がいいとか、意外と可愛いところがあって親しみがもてた。


智加子
 またもやバッドエンディングなシナリオ。この作品のバッドエンドは情緒がないので、メインヒロインの前座扱いにされるヒロインたちが不憫になる。智加子は好みのヒロインだったので期待していたけど、ケーキを作ろうと楽しみにしていたところで、物語としては終わってしまった。あとでちゃんと救われるといいんだけど。絵が正面の立ち絵以外は崩れ気味だったのも残念。


千尋
 セーブシステムの使い方を間違えていたらしく、初めの二人のヒロインのシナリオをやり直し。分かりにくいっす。
 千尋エロゲーのシナリオ分岐システムを擬人化させたヒロインのようなところがあるらしく、箱の中でいくつもの可能性が折り重なっている状態を収束させるという前向きな役割を司りながらも、主人公との可能性を大切にして・・・とか書くとこれもどこかで見たことがあるような・・・。肝心のところで寝落ちしてしまったので理解が曖昧だけど、「アレ」と千尋の関係って表裏一体みたいな感じなのだろうか。とすると彼女もまた主人公のトラウマを癒すために呼び出された前座のような。


絵麻
 妹に囚われたドロドロとした狭い世界から始まり、妹とは普通に仲良しで他のヒロインたちとも普通に仲良しなエンディングへという、普通のエロゲー妹シナリオを遡るような形の絵麻の物語。これでいいのか?前のめりに倒れた絵麻が何とか辿り着けた物語は、まだ分岐する前のスタート地点に過ぎないような気もするが、確かに性愛+恋愛が必ずしも至上というわけではないし(エロゲーとしては問題あるにしても)。まあこの世界で絵麻が主人公以外の男を好きになることも考えにくいような気がするが。
 作品を通じて絵麻がずっとかなえようと努力していたこととは別の結論に辿り着いてしまった物語。結局主人公は一度も絵麻に恋愛感情を持ってくれなかった。それどころか説得されてしまった。絵麻シナリオに限らず、この作品にはバッドエンドっぽい終わり方が多く、そういう失敗した者たちの思いで成り立っているように思える。そんな怨霊の鎮魂のようなエロゲーは果たして必要だろうか。中途半端な小ネタや垢抜けない演出のせいもあり、すぐに剥き出しのテーマに目が行ってしまうが、僕の視点も作品名と同じく定まらないまま、という意味ではリアリティのある着地点なのかもしれない。子供の頃の記憶というのは危険な魔力を持っていて、そこに魅入られてもろくなことはない、でも何かせずにはいられない時だってある、というあたりから生まれてきた作品なのだろう。その業の深さは他人事ではないから、もやっとしたものが心に残る。