M お姉ちゃんの集中恥療 (75)

 水仙花の坂本恵美的な人が紡ぐ物語ということでいろいろと期待しつつ、一驚一嘆しながら進めていたんだけど、全体的に重苦しい。ここまで追い詰めないとダメっていうのは何のしわよせなんだろう。深く考えるまでもなく、まり∞くりでジャンルとしてのエロゲーを「総括」してしまった後に来るべきものの選択肢は少ない。それを強引にまとめてしまえば、終われなかったことの罪悪感と、反復することの歪みだろうか。重苦しい共犯意識と明るい変態嗜好は、どちらがどちらを覆い隠しているのかもはやよく分からない…。


 春日井A子…今作の汚れ役?名前は元長作品と関係がありそうだけど、残念ながらセンスオフはやっていないのでなんとも。水仙花で「愚者」を演じたヒロインは、今回は立派な身体を与えられてとても誇らしげ。よかったね。でもスカートははいてもいいですよ。恵美の変身願望は肌の色的にはこのA子とひなげしに受け継がれ、二人ともそれぞれのやり方で、禁欲的だった恵美の代わりにはじけてくれるのだろう。正面向きの一枚絵がエヴァのチビレイみたいで懐かしい怖さでした。ただ、やはりオネエ言葉は個人的に受け付けられないのがもったいない。別の作品のMの言葉を借りれば、「おまえの言葉は届かない。残念だったな!」。残念なのは僕ですがね。


 東雲ひなげし…滝本先生、NHKのマンガ版で考えた最強のヒロインが具現されましたよ。あるいは動ポモのデ・ジ・キャラットを論じたくだりを思い出させるような。属性のキメラ。綾波の包帯と、小夜の隻眼と、衛たちの拳銃と、その他諸々の怨念から生まれた愛すべきホムンクルス。踏まれっぷり、放置されっぷりの素晴らしさに惚れた。ゆるゆると触りあう交わりの涅槃っぷりといい、エッチシーンが特によいヒロインだった。


 東雲ぽち…変態という非日常的な次元を作り出すのは言葉から。赤ちゃん言葉に脳みそが解けて思考停止に。というかまた寸止めかよこの糸目娘。もう変態でなくてもいいから、とにかく一回やらせてください。


 「の」…言葉が自由闊達すぎていた「俺たちに翼はない」をやったあとだと、さすがに耳障りだなあ。こちらでは演劇的な様式性の小道具の一つとしてなのだろうけど、「吃音の聖性」として受け入れてしまうのは安易だろうか。慣れてしまえば別なのだろうけど。同じく、「それでも…」とか「それだからこそ…ね」とか、接続詞だけでその先を飲み込んでしまうセリフが多すぎて疲れた。別に本作に始まった話でもないし前から気になっていたことだから、冒頭で書いた問題意識に引きずられて耳についたのか、それとも単に僕の気分的な問題なのかはよくわからない。
あ、あと各シーンのタイトルの意味がかなり不明。字面から想像するくらいしか出来ず、降参気味です。


 精液・男性器…ここまでくるとなんか中世の錬金術のエリクサーか何かのような。なんでこんなに執着しなくちゃならないのか。いつの間にこんな変態になっていたのだろう。


 何気にエッチシーンが冷静に考えると滑稽なのがよかった。ひなげし関連のほかには、こっちを見る変態仮面の澄んだ瞳が印象的でした。数々の変態プレイに時々安らぎを覚えている自分に気づいて、なにやら感慨深いものがありました。
 人を励ますにもいろいろな方法があるけど、これはゆっくり効きそうな薬だ。メタゲーとして云々みたいな話もあるけど、結局はこの読後感に尽きるのかな。