- 作者: 唐辺葉介,Tiv
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結局、歩と真琴の違いは何だったのだろうか。作中に動機付けの伏線はあるのかもしれないけど、すぐには分からないくらいにいろんなことが滑らかにつながっている。あるいは、二人を分けて考えることには意味はないのかもしれない。二人だけではなく、もともと人はみんな別々の世界を生きているんだって作中でも言われているし。たまたま遅い早いの違いだけで、ずっと歩の側にいた典子が何かのきっかけで「大人」になったように、歩もそのうちに真琴と同じようになるのかもしれない。そうだとしたら、そこまで描かずに途中で物語を終わらせたというのもまたうまいなあ。
ピンポイントできた場面やセンテンスは特に終盤にいくつかあったけど、自分は引用が下手なのでどう書いたものか。ヒノエと真琴の対話の場面が、なんとなくスヴィドリガイロフやスメルジャコフやキリーロフを思い出させるような、なつかしのドストエフ式告白でじんわりきた。告白をするというのは、内容にもよるけど、聞かせる相手に負荷をかけることだとあらためて思わされる。そのことを知っていながらも他にあてもなく、とても遠い他人に向かってメッセージを発し、静かに拒絶され、「それでは、さようなら」と見送るのがあわれ。もう何もやることがなく、誰も手を差し伸べることもない。だからそんな闇に巻き込まれないように、そんなに物事を関連付けて考えてばかりいると心が病むよと自衛し、生きなければ意味がありませんと壁を作るのだ。
自分が「特殊」であるように周りのみんなも「特殊」に別々の世界を生きていて、決して自分だけが有利な条件を与えられているというわけではない、残酷な現実を誰もが生きなくてはならない。歩だって努力しないとすぐに落伍する。そんな苦しさの中でも、今自分は人生のうち、限られた特別な時代を過ごしているのだ、と感じられる彼女たちを、少しは僕も見習えるようになりたい。