定金伸治『制覇するフィロソフィア』

制覇するフィロソフィア (スーパーダッシュ文庫)

制覇するフィロソフィア (スーパーダッシュ文庫)

 男塾に代表されるような少年マンガの文法で組み立てられた小説。郷愁にかられる。強さと夢を重ね合わせた単純で真っ直ぐな動機に支えられ、身体的なぶつかり合いと頭脳戦で展開されるストーリー。勝って先に進むか、負けて去るかに描写が集中し、薀蓄の横道にそれたりめんどくさい事物描写でリアリティを確保しようとするような重たい文学的野心はなく、男塾から借りてきたような戦いの演出のためだけに作られたような省エネ化された舞台で繰り広げられる努力と友情と勝利の物語。この現実から隔離された小世界に懐かしい魅力を感じる。物語としてのひねりは割とたわいないものだ。完全に女体化された男塾という設定は、紳士読者向けの優しい配慮なのだろうが、この物語世界の人工性を強めているようで、さりげなく病的なのが嬉しい。省エネ化された設定は物語の薄っぺらさと紙一重で、事実語彙の少なさ・台詞のテンプレ度合いは読み物としてちょっと寂しいし、一応目玉とされるべき「哲学」がソクラテスからニーチェまでの哲学を、申し訳程度にバトルやキャラの設定に生かしているだけなのは物足りない。それでも、少年マンガ的なものへの郷愁がこの物語をうまく駆動して成立させてしまっていたりするから別にいいのである。いつもの定金氏の作品のとおりちょっとべたでしつこいけど、それぞれのキャラの魅力は優しく伝わる。続刊を想定した終わり方だけど、ここで宙吊りにされるのも、連載少年マンガの半永久的に継続される世界の象徴となっているようでいいのかもしれない。