南方への助走

 レヴィ=ストロースがなくなったとのこと、自分とは関係ないけど残念だ。まだ読み終えていない本がたくさんある。エキゾチズムと長く親しんできたフランス人だからこそ生み出せた学問なのだろうなという気がする。
 白光のヴァルーシアのサポーターサイトに登録してもらってテンションが上がってきて、サントラをもらうために予約してきたらもうすでに予約してあったらしく、2本になってしまった。誰か秋葉原ソフマップの予約券いりませんか。登録してもらっておいてなんだけど、自分のブログの趣旨上、ゲーム発売まで一緒に盛り上げてあげるというよりは、ゲーム発売まで僕が一人で盛り上がるだけのポストしか書けなさそうなのが申し訳ないが、11・12月発売予定のエロゲーのラインナップを見るに、物語として期待できそうなのがはっきり言ってこの作品しかなさそうなので、いやがおうにも期待せざるをえない。とはいってももったいないから体験版はやるつもりはないので、盛り上がろうにもかなり的外れな感じになってしまうかもしれない。
 前作シャルノスの舞台である20世紀初頭のロンドンは、昔かなりハマっていた同時代のペテルブルクととても似た雰囲気だったために、個人的にど真ん中にストライクだった(ていうかsharnothってchernota<黒>と同じ語源だろう。クトゥルフ神話ってけっこうスラヴ系の言葉入ってそうだし)。今作ヴァルーシアの舞台となる砂漠にはあまり個人的な思い入れはない。同じく自分の引出しにあまり重ならないインガノック(現在プレイ中)は、話は面白くてもやはりシャルノスほど皮膚感覚に合う感じはなさそうなことからいっても、ヴァルーシアどうだろうなあなどといいちいちどうでもいいことで気をもんでいる。ただ、僕の中では、世紀末の霧の都市の後に灼熱の砂漠の物語が来ることは文学史的には順当なことで、ペテルブルクを愛した象徴派の後にアフリカやローマなどの明るい南方を舞台にしたアクメイズム世代が登場したことにちょうど重なる。ジャック・ロンドンだかキップリングだかにガチでハマり、何度もアフリカに旅行に行った、帝国主義時代の申し子のようなグミリョフ。彼の作品で印象に残っているのはチャド湖のキリンを描いた恋愛抒情詩「キリン」とか、ユスティニアヌス帝時代のコンスタンチノープルを舞台にした詩劇「毒染めのチュニック」とか。軍人のグミリョフが明快・明晰なリズムと文体を刻むのに対して、音楽家のクズミンは南方の明るいデカダンスを透明なのに色気のある文体で描く。アクメイズムが登場した頃から、いろいろと古代や中世の凝った韻律を使ってみるのが流行りだしたけど、アレクサンドリアやエジプトのエキゾチズムをエキゾチズムとしてきちんと描けるのはクズミンとブリューソフくらいではないか。できれば予習復習しておきたい。あとは、時々少しずつ読み進めていたベールイの回想録三部作に、アフリカ編が最後にあった。もし間に合えば予習をかねて何とか読んでおきたいけど、300ページくらいはありそうだな…。中近東の文学がきちんとロシアに紹介されたのはたぶん革命後の思想的な流れの中でのことで、そこでは妖しい毒気はいくらか抜けて教育的なもの、よくてもユートピア的な未来志向のものが主流になっているのだろう。ヴァルーシアの南方は過ぎ去った帝国主義時代(かそのさらに前)をモデルにしたものだろう。初期ソ連のような拡大志向の時代の空気を吸っているのならいざ知らず、もとより幻想としてしか受け取れないような遠い世界の話、寒い季節に読むのがちょうどよさそうだ。