白光のヴァルーシア (70)

 テンポよく読んで行けない文章なので途中であきらめてゆっくり進めていたのがようやく終わった。ダラダラ書きます。
 先日銀座の宝飾店でバレエ・リュスの舞台衣装とパンフレットの展示会をやっていたのを偶然見る機会があったけど、やっぱ今作のヴィジュアルはレフ・バクスト達の舞台美術を思わせるところがあると再確認した。こんな感じの(一部非アラビアモチーフあり):




 当時のニジンスキーやカルサーヴィナのようなダンサーの写真を見ても、本当にこれを着て踊れるのかというような重たい装飾が多いのが面白いところなのだが、ヴァルーシアの絵も、特に全身立ち絵には静止撮影を想定したような、衣装(服というより衣装という感じ)のテキスタイルを生かした美しいポーズが多くて、そのリズミカルな様式性に目を奪われる。
 様式性といえばもちろん文体も。エロゲーには音声と絵があるのだから、散文的な自然主義的描写を捨ててとことん音楽的な様式性を追求してみるのも面白いだろうなあとは前から思っていたけど、当然、必要なボリュームの文章をすべて韻文で満たすのは常識的に考えて無理で、今シリーズのように反復を多用したり字数を揃えたりするのがせいいっぱいのところだろう。正直、表示や朗読の速度に合わせて集中して読んでいたらかなり疲れるし、そこまで味読するほど技巧が凝らされていたか疑問な部分もあったけど、これそのものはとても面白い試みなので今後も続けて欲しい。朗読されるのなら目を閉じて音声だけ聞いていくのもいいだろうし。
 幕間の夢見のシーンは、テクスト自体はあまり面白くなくても、強調された制約性がバレエの舞台のようなデザインにも、当時フロイトがウィーンで唱え始めていた「無意識」という設定にも、スクリャービンピアノ曲のようなシンボリズム風のBGMにもしつこいくらいに溢れていて、そんな中でかわしまりのさんの心地よい声を聞けるのはある意味極楽なんじゃないかと。甘ったるいとは分かっていても否定はしたくないところだ。ルナに罪を聞いてもらったり願いを聞いてもらったりしたいところだ。シャルノスのような強力な萌えキャラはいないのが痛い今作だけど、ルナの美しい声(とエッチな衣装)は記憶に残る。
 声といえばヒルドもとてもよかった(金田まひるさん)。脳みそに染み込む高音だわ。「機関、異常なし。機関、異常なし。」とても、異常なしされたいです・・・。キャラとしてもとてもよかった。そういえば昔観たリュック・ベッソンの映画でも、確かフランスの青空の日差しの強さと神の無慈悲さが重ねられて、壮絶な印象を受けた気がする。ユイスマンスの『大伽藍』とかでは、そういう壮絶な信仰心が病的なほどの耽美趣味に転げ落ちそうで、フランス人はやっぱり危ないなあと思った記憶が。長い間神を呪うために生きてきたヒルドにとって、神がいないことが前提となっているこの世界はどう映ったのか。呪い甲斐がないからこそ「万能王」に望みをかけたのではないか。この先彼女の「物語」は神のいない世界でどう綴られていくのか、もう受け入れ満たされたのか、神を何かに替えるのか、神のいる世界に戻って探し続けるのか、気になるところ。
 絵の話に戻ると、やっぱり世紀末。今作のエッチシーンの色彩感覚はルドンの絵を思わせるものがいくつかあった。こんなやつ:


 クレヨンみたいなタッチの絵があったからというのもあるかも。「白き死の仮面」の目にもなんだか「ルドンの黒」っぽい感じがあった。クトゥルフ神話をまったく知らないのでそっちに出典あるのか分からないけど、アブホール天使型のデザインにもルドン的な存在感あり。アブホールと鋼鉄の巨人の設定は最終章で明かされるけど、どうもそれで割り切ってしまっていいのかという気もする。現れるアブホールを巨人がその都度倒して、でもそれでめでたしめでたしというわけでもなく、その戦いに善悪で割り切れない悲しい作業というか儀式のようなニュアンスがあったことが重要で、それは、アブホールを呼び出したのが必ずしも黒幕の側だけだったのではなく、そこに色々な立場の人が関わり、それぞれが自分なりの意味を見出していて、やはり善悪とは別の位置にある巨人のなすことに対して意味の落しどころを見出すことができず、結果をあるがままに受け止めるしかなかった。この中途半端な無力感が、(エヴァっぽくなっていった)ゲーム内の設定的な意味とは別に、ある種の説得力をもつような気がした。音楽もその辺の空気をきちんと読んだものだったと思う。「知るもんか!」で済ます少年がいる一方で、アナやナナイは深く潜ったようだし、レオとリザの関係もアブホールを砕く意味を間接的に表している気がする。あまり適当なこと書くより再読したほうがいいのだけど・・・。
 というわけで、僕はこの作品にアラベスク・ファンタジーを見ることを期待してプレイして、結局昔慣れ親しんだ世紀末のプリズムを通したアラベスク・ファンタジーを見ることになってしまった。だがまあ意匠はあくまで意匠。物語であることに自覚的なこの作品があらわすメッセージは、登場人物たちの姿や言葉を通して僕にも伝えられたと思う。いや、ルナはオレの嫁って言えないのは残念なんですけどね。リザはエッチシーンが描写もテーマもよかったので満足でした。