SFマガジン編集部編『ゼロ年代SF傑作選』

 ネットはまだつながらず、外から久々に更新。

  • 冲方丁マルドゥック・スクランブル"104"」・・・△。明るめの攻殻機動隊みたいなドタバタアクション。
  • 新城カズマ「アンジー・クレーマーにさよならを」・・・◎。ザミャーチン伊藤計劃のような現代SF的な少女性を描けばという感じ。僕たちの持つ少女性の幻想が少女たちの持つ自由の幻想へと昇華されているような気がして、その未来のない薄ら寒く結晶化されたイメージに突き抜けた美しさを感じる。幻想の少女性を象徴するですます調と古代ギリシャの厳しく叙事的な語りが交錯するリズムも器用でうまい。名前は知っていたけどあらすじがつまらなそうだったからスルーしていた『サマー/タイム/トラベラー』も買ってしまった。次につながる作家を発見できたので本書を買った甲斐はあった。
  • 桜坂洋「エキストラ・ラウンド」・・・△。オンラインゲームのテーマとしてはややありがちな話。忍者の語りの異化作用が面白かった。
  • 元長柾木「デイドリーム、鳥のように」・・・○。ちょっとエロい。例によって、メタテキストという設定がなければ果たして文学作品として上質か判断しづらい系。面白く読めたことは確か。
  • 西島大介「Atomosphere」・・・×。自足感が鼻に付く絵柄が苦手。内容も思わせぶりなだけに見える。このアンソロジーにマンガを入れるという発想自体は評価したいけど。
  • 海猫沢めろん「アリスの心臓」・・・○。ランボー的な共感覚の描写やら未来派的な文字絵やら、なにやら懐かしいモダニズム文学の小道具たち。カラッとした文体なので、少年の目に映るカラッとした夏の風物描写が似合っている。ギャルと美少女のギャップ、二次元から五次元までの最後のオチがうまかった。まじめな作家らしいがサブカル臭が少々。エロゲー畑出身でメタ好きらしいというのが気になるので『左巻キ式ラストリゾート』を探したけどなかなか売ってない。
  • 長谷敏司「地には豊穣」・・・△。ちょっとだけ読んでくどいので切った円環少女よりはまじめな話らしい。でもやはりくどい。文化の翻訳とアイデンティティというテーマもちょっと古びて見えた。
  • 秋山瑞人「おれはミサイル」・・・◎。秋山好きなので何百年も空を飛び続ける戦闘機の話というだけでイリヤの空やら焔の空やらがオーバーラップして◎。彼らが消えていった未知の空が、ここではそれが世界のすべてであるようないわゆる黒いほどに青い無限の広がりとして描かれていると、どうしてもイリヤたちとの連続性を見たくなる。ラストエグザイルがちらつくのは気にしないことにする。それにしても!もっと書いてください!空が出たのでまた渇いてきた。あと潜水艦物は早く文庫化を。
  • 藤田直哉・解説・・・○。SF業界特有なのかもしれないが、無駄に熱が入っていてすばらしい。伊藤計劃はこの「リアル・フィクション」の枠内だと思う。円城塔は面白いが、文学潮流として考えるには存在がユニークすぎる。あと誰なんだろう。SFはだいぶ好きになったけどまだ雑誌を買うほどではないかなあ。でもゼロ年代傑作選としては一冊では足りなかったと思わせるくらいには可能性を感じさせられた。