明日の君と逢うために:舞

 舞のモノローグはない。舞はツインテールの強気なヒロインでありながら、ことあるごとに自分が普通の女の子であることを強調する。舞にはトラウマ設定もない。
 ここは御風島ではない。神風は吹かない。風通しがよいように思えるのは舞自身が吹かせている風のせいだ。ここでは主人公の化けの皮ははがれ、舞の前でとんでもない醜態をさらし、舞に問い詰められてうろたえ、みっともない泣き顔を舞に見られる。舞の問い詰めが生々しくてひやりとする。まっとうな変態ならのちのちこの傷を舞に抉ってもらって悶える快感を覚えること間違いなし。主人公の「トラウマ」はこの本土というアウェーでは正常に機能せず、作り物の設定くさい不可解さを残す。明日香が消えることによってトラウマを2回目で無理やりプレイヤーに理解させようとするけど、無理やりだからかかっこ悪い。
 明日香の置手紙も嘘くさい。居場所を探すだけなら普通に考えれば「向こう」に行く必要はない。実はベタなシーンだったという可能性もあるけど、ここは意図的な仕掛けとしてとっておきたい。明日香の消失に生々しさがないのは、島vs本土という二項対立に引っ張り出されてしまった時点で明日香が取らされざるを得なかった立ち位置に起因するわけで、神のそばにいて優位を占めているはずの「普通じゃない女の子」は、その実、神なしでは思いがけない脆さを露呈する弱者の一族だったりする。舞の作るまかないやお弁当が地に足の着いたとてもおいしいものである一方、明日香が1人で料理を練習しておいしく作れるようになっていくのが見ていて切ない。
 舞とのいちゃつきやエッチシーンは、品のない言い方をすれば、リア充的に見える。さらに下品に言えば、舞が絵的にギャルっぽく見える瞬間もある。エロゲー的ではなく自然に惹かれあって、ドラマチックなこともなくカップルになったからだろうか。「普通」の女の子が一生懸命がんばれば別に珍しいことじゃないのだろう。といってもさすがにそれで興醒めするほどの馬鹿ではない。舞が一生懸命エッチをがんばるから(声がすごく大きい)、こちらも応じざるを得ない。一度舞に問い詰められて征服されているから、その恩を返すために、もうひたすら尽くすしかない。中華料理店の看板娘であり、店長の娘として将来店を背負うことになるという立場は、出世というには程遠いささやかな人生を想像させるけど、舞が切り盛りしていくならきっとやりがいのある楽しい仕事になるだろうなという気がする。そして世の中の大半の仕事は、そんな風に受け取り方しだい、人しだいで楽しいものになるのだろう。主人公は頼りない。中出しとかしてる場合じゃない。こんな誰かさんみたいな奴に舞なんて、本当はもったいない。それでも彼女が見ていてくれるのなら、全力でついていくしかないだろう。彼女は「普通の女の子」として生きることをとうに受け入れているような、大人びたようなところがあるのかもしれないけど、そうではないかもしれない。モノローグがないから決定できないし、したいとも思わない。というわけで説教くさい感想になってしまったが、要するに舞のチャイナドレス姿を見ると元気が出るなということと、彼女がいつも幸せでいられるようにがんばれよということ。