秋山瑞人『Dragon Buster 02』

龍盤七朝 DRAGONBUSTER 〈02〉 (電撃文庫)

龍盤七朝 DRAGONBUSTER 〈02〉 (電撃文庫)

 昨日から一日、内容を忘れかけていた01と今回上梓された02を連続で読んだ。薬物を摂取しているのと変わらないだろう強烈で濃密な読書。2012年は1月8日で終わってしまったと言ってもいいような楽しさだった。これだけの本が出るのならきっと誰だってどれだけ待たされても許してしまうだろう。傑作というのは、読者にとり、それだけで新たなジャンルを作り出し、終わらせてしまうような作品のことだ。これからは幻想中国史とか武侠小説とか、これまでろくに知らなかったジャンルの中に、このDBシリーズの読書体験の影を追いかけなくちゃならない羽目になるのだろう。学生の頃に中国語と中国文学にはまっておかなかったことを後悔するけど、その豊かさの遠いこだまを秋山小説がいまさらながら聞かせてくれたことに感謝しよう。
 ただし、薬物的な魔法の文体の熱がひとたび去ってみると、作者自身があとがきで言っていることも気になってくる。中国武術アクションとしてのこのシリーズは、この2巻で一番の山場は越えてしまった。武術は強いか弱いかの話なので、あとはインフレに流されていくのみだ。そんなことを続けても仕方ないので次巻ではもっと違うものを期待したいが、それとも作者はまた何か思いもつかない形で武道小説としての魅力を見せてくれるのだろうか。いずれにしても、この方向では期待するのも期待に応えるのも業の深いことにしかならない気がする。それよりもこの元都の風物詩的なディティールや、月華がそれらを見聞していく様子をずっと追いかけていくほうが楽しいように思えるのだがどうだろうか。『イリヤの空、UFOの夏』では鉄人定食や旭日祭や新聞部の日常、秋山的な異常な日常がずっと続き、「夏休み」はいつまでも終わらないほうがよかったのではないか?あまりにも力強い虚構の中の世界と、言語や物語という残酷な枠が、どちらが悪いわけでもないのにぶつかり合う。回転する月華はその構造の可愛らしいミニチュアだ。そしてその相克に読者を巻き込み、幻惑するのがこの作者の小説。あと1冊とは言はずもっと書き続けてほしいのだが、何とかならないものだろうか!