石川博品『四人制姉妹百合物帳』

 もっと若いころに読みたかった。そうしたら何か違っていたかというと分からないが、だらしないおっさんになってから読むと眩しすぎて、優しすぎて、心苦しさを覚える。ネルリと同じ、ハイテンションなコメディから始まって時間の流れに打ちのめされる展開。2回目だからということがあるのか分からないが、百合時空は移り変わっていく途中の儚い美しさ、儚い幸せに形を与える意味にとても自覚的で、まさに一筋の混じり毛もないかのごとく純度が高かった。彼女たち自身も自覚的でありながら、それでも若さの中にある。そしてそれはすでに過去のものとなっている。女の子に生まれ変わって女子高に通いたい、というか百合の創作世界に紛れ込みたい、という憧れが出てくる。いや、違うのかな。BL好きの人みたいに、カップルの幸せに感染したいという感覚だろうか。その辺りは百合物をあまり知らない自分にははっきりと意識できないが、とにかく溜息が出るような見事な言葉の工芸細工だった。最後の剃毛式にさえなんだか感動的なものがあった。語りの入れ子構造にあるとおり、自分は物語に思いをはせる傍観者でしかありえない。クミコの憧れに憧れるようにしか関われない。向き合わないベクトルの思いは、どこかへ向かって進んだままの状態で結晶化し、噴水のように止まりながら動き、いつまでもきらめきを失わない。