石川博品『平家さんと兎の首事件』

 コミケは3日目に用事が入ったので、結局2日目に行って石川センセの平家さん小説だけを買ってきた。その後、秋葉原に行って普段の職場近辺では見つけられなかった同人ゲーム「西暦2236年」と「彼女、甘い彼女」、ついでに「ノベルゲームの枠組みを変えるノベルゲーム」、及びガラケーのジャンクバッテリーを買ってきた。
 石川センセにはサインももらい、今度は離婚をテーマにした小説をお願いしますと冗談半分の無理なお願いをしてきたのだが、すでに今回の平家さんが離婚後の家庭を背景にした物語で、アクマノツマに続いてまたもや個人的にタイムリーな小説だった。
 作品としては、こういうビターな背景や学校生活のノスタルジックな描写があってこそ、平家さんや及川さんの滅茶苦茶っぷりが映える構成で、ネルリの時と似たような眩暈をおぼえそうになる。別に主人公の翔と平家さんや及川さんの恋愛物語だったりはせず、彼女たちは勝手に暴れまわっていて、翔は妹を気遣いながら彼女たちと仲良く学校生活を送っているだけなのだが、そのキャラクターの濃さと訳の分からない田舎ワールドの空気のおかげで、主人公兄妹(と僕)の悲しみは癒され薄められていく。普通は人が物の怪や怨霊を鎮めるはずなのに、まるで反対である。それから、下校する主人公の視点が急に、下校する生徒たちを引く波にたとえる海の上の漁師の視点に切り替わるシーンがあるが、そういうまなざしの優しさにもやられる。
 石川センセの文章の楽しさについてはいまさら言うまでもない、というか僕にはうまく言い表すことができないのだが、今回も何度も笑わせてもらった。平家さんの古文調の言葉の自在さも素晴らしかった。毎度ながら、自分が日本語話者であることに感謝したくなる小説だ。もう2〜3冊のシリーズ化はできないものでしょうか。