メロディ・リリック・アイドル・マジック (ダッシュエックス文庫)
- 作者:石川 博品
- 発売日: 2016/07/22
- メディア: 文庫
確かにライブのシーンの臨場感は素晴らしい。剥き出しのアイドル観、技術のない素人が作り素人が歌うステージ、(嫌な言葉だけど)人間力で魅せるステージというものは、芸術や歴史や超常的なものがなければ物事に価値を見出しにくい、人間不信気味の自分にとっては胡散臭いものだけど、ここではアコにある種の天才性が付与された描写がなされている。それは単に主人公が彼女に恋をしているからというだけのことかもしれず、また、実際のコンサート会場の客には知ることのできないステージの裏や歌手の心理といった細部を描ける小説という形式の狡さであり、また優しさなのだろう。
同じステージ音楽の魅力を描いた作品としてキラ☆キラがある。こちらは初心者グループの成長物語という点ではメロリリよりも本格的で、悪く言えばメロリリのキャラ配置やストーリーの流れはキラ☆キラの縮小版のようにも見える。そしてきらりの天才性の表現は割りと中途半端で(エロゲーだと実際に音楽が鳴るので、ライターにはコントロールできない部分があるので仕方ない)、作品の主題もそれとは別のところにあった。メロリリでは、アイドルというシステムに乗せて青春を描くという主軸とは別に、ヒロインの「内面」(悩み)に迫る描写が多かったのは石川博品作品にしてはベタだなと思った(その悩みにしても、割とよくありそうな感じでのものでやや拍子抜けだった。というか、後半はストーリーの展開を詰め込みすぎた気もする)。同系の作品としてヴァンパイア・サマータイムやトラフィック・キングダム、ノースサウスのような作品はあるけど、これらはどちらかというと実験作だと思っていて、石川作品の魅力が発揮されている本流は、ネルリや後宮楽園球場や平家さんのような、女の子を不思議な魅力に溢れた存在として描く作品だと思っている。女の子しか出ない四人制姉妹百合者帳でさえも(それとも女の子しか出ないからむしろ当然なのか)こちら側なのだから、石川センセの童貞力は筋金入りだと思うのです。
その意味でアーシャの方はまだ「見られる」キャラクターとして描かれて部分が大きいので、もし続刊があるのならそのまま素敵な奇人路線を突き進んで欲しい。最後にチラ見せしたアコとの妖しげな友情路線もよい。この巻だけで判断すると、アコの陰に隠れてあまり分からなかったのが残念だ。インド(?)舞踊のような不思議な踊りも文章ではよく分からないし。
僕にとっては石川作品で一番ハードルが高い作品だったけど、アーシャやアコの掛け合いや心の中の突っ込みが愉快な方向に転がっていって飽きさせず、下手に深刻ぶらない、というか深刻さを乗り越える軽やかさがあってよかった。この軽さは若さの特権であり、無からきらめく何かを作り出すアイドルという幻影のシステムに、明るさを与えてくれていて素晴らしかった。本物のアイドルやアイドル育成ゲームは相変わらず痛ましくて好きになれないけど、石川作品ならアイドルのきれいな部分を存分に見ることができるのだから。