ノラと皇女と野良猫ハート (75)

 ヒロインの個別感想で書きそびれたので一言。おっぱい大きかったです。これだけ揃いも揃って大きいとおっぱいの安売りのように感じても仕方ないですが、とにかく景気がよかった。豊穣感があった。おっぱいは魔法だな。


夕莉シャチ
 「ノラさん」と呼びかける声がいつもとても優しくて、この娘は本当に丁寧に言葉を発しているなというのがわかる。基本的に取り乱すところがないよくできた娘さんだけども、機嫌がいいときはそれが自然と分かるような、嬉しいときには頬が上気して目も喜んでいるような表情豊かなところがとてもよい。いつも落ち着いているかのようでいて、何気に立ち絵が傾いていたり、肩が力み気味の絵があったり、ちょこんと結んだ尻尾みたいな髪束が元気そうだったりと、実は言葉に劣らず身振りで語る娘のようである。主人公と結ばれた後も、淡々とじゃんけんで勝ったらキスをするゲームを何度もやり、しまいには勝つことが予測できたので先にキスしてしまいましたとおっしゃる。ロボットの話が出てきたけど、ある意味で抑制が効いているからこそ一番表情が豊かというか、表情がしゃべる娘だったように思う。陥没乳首もそれを象徴している。こんな娘が獲ってきた海の幸で作った食事、さぞかしうまいだろうな。ノラが塾を続けてシャチが料理本を出してと、とても牧歌的な終わり方で気が遠くなる。


明日原ユウキ
 あだ名が「ビッチ」で、すごく申し訳なさそうな目が印象的な娘である。あとつっこみが愉快な明るい娘である。ギャルを演じつつも、主人公に告白されたら笑って断り、私と付き合ったっていいことないんすよ。往生際悪く告白を続ける主人公はかっこ悪いが、一度手にした幸せは決して離しはしまいとする必死さが印象的だった。


黒木未知
 黒髪ロングの優等生キャラなのに、性格にもストーリー展開にも安定感がなくて面白かった。優等生であることは彼女の本質なのではなく、不安定な生き方の中でかろうじてバランスを取るための分かりやすい浮き袋のようなものなのだと思う。主人公と結ばれてからのわがまま、甘え、周囲との衝突は、彼女がこれまで押し殺してきたものの噴出であり、彼女はこれから第2の成長を始める。彼女は効率悪く動き回って、振り回されて、理不尽な目にあってばかり(冥界にまで飛ばされる)。なぜ彼女ばかりがこんな損な役回りになるのか分からないが、そこはもう諦めて受け入れ、むしろ彼女とのドタバタし、一喜一憂できる若さを幸せと感じたほうが有意義なのだろう。大声の告白は絶唱だった。世の中にはスマートに生きられない人ってのもいるのだ。


パトリシア・オブ・エンド
 この作品の中心を成す物語のはずなんだけど、冥界の皇女とか、地上に死をもたらしにやってきたとか、設定がいかにも茶番で安っぽいドタバタコメディにしかならない題材である。実際にドタバタコメディなんだけど、パトリシアがいい娘すぎて引き込まれる。本や辞書を読んで勉強するのが好きな謙虚な女の子で、夢見がちな優しくて力のない声をしている(小鳥居夕花さん……こころリスタのアルファの声の人だ)。一人ぼっちの幸の薄そうな声なのだけど、地上では小さな喜びや驚きをたくさん見つけて楽しそうで何よりだ。話を聞くに、冥界はきっと暗くて不便で殺伐としたところなのだろうけど(そして魔法の呪文は何だかリズム感がおかしい変な言葉の羅列である)、そこでも日々をけなげに魔道書を読んだりしながら過ごしていたのだろう。
 そこら辺のアンバランスさは他にも、例えば、パトリシアのテーマ曲ともいえるBGM「月」とそのボーカル曲の使い方にも感じられた。戦前のレコードを思わせるようなレトロな感じの優しい曲で、深刻な場面や緊迫した場面で流れる。物語に対する優しいまなざしとしては音声付のナレーターが設定されていたけどちょっとくどかったのに比べると、このBGMは見事だった。
 印象的だったのは、シナリオ後半の展開だ。主人公を家族に認めてもらおうとして、妹二人がパトリシアに説得されて順番に攻略される展開になるのだが、パトリシアの一途さ、純真さがかえって強く感じられて何だか温かい気持ちに包まれてしまう。賢者になった主人公を元に戻すときに身体を張るのだが、これも一途ないい娘だなあという感想になってしまう。母親を説得するときも、敢えて魔法には頼らず、言葉を尽くす。母親も強引にことを進めることもありながらも、結局は娘の言葉をきちんと聞こうとする我慢強さがある。娘のデートに(魔界の玉座に座ったまま)大人しくついてきたり、食事をその場では食べなくても、冥界に持って帰ったりする。「自由奔放な私の娘。自由なのは構いません。しかしこのままでは地上は滅び、冥界すら滅びを迎えることだけを伝え、私は、私の世界へ帰りましょう。」 この間の地味で着実な展開がパトリシアの性格を表しているように感じた。
 結局ノラの心臓はパトリシアの心臓と引き換えに止まり、ノラは猫になってしまうわけだけど、別れるときにパトリシアが叫ぶ滅びの魔法――「月」の歌詞で、その優しい歌自体もBGMで流れる――が意味不明で、いやきちんと考えれば意味が分かるのかもしれないが、パトリシアが必死に泣きながら叫ぶと、何だか意味を超えた気持ちが乗せられているように感じてしまう。


「夢つむぐ はなびら 見上げれば 月 / 雨音に はなびら ガラスには 雪 踏みしめて 見上げた 真夜中の声 / 風に吹かれ 水際を呼んだ おいでおいでと 遊ぼうと また明日と はじめて出会った 光 / とくん とくん 生れ落ちゆく 空を破り聞こえた音 言葉はもうなく 足あと 消えても / 白い砂 すくって 音は静か / 響いて 今 歌声のない 世界には別れを 告げ さあ踏み出すの この命胸に秘め / 白い砂 すくって 音は静か / 夢つむぐ はなびら また会えるかな」


 ……こうやって連に分けて書き出してみて冷静に読むと、パトリシアがノラと会ってから別れるまでのことを歌ったものだと分かるのだけど、これはパトリシアが恋とか愛とか知らないまま冥界で覚えた魔法で、この最後で泣きながら唱えるというのは何とも悲しい。そしてノラはこれを滅びの魔法ではなく、ただの日々の挨拶だと読み替える(はとシナリオ特有の強引な読み替え)。ノラの死も茶番にしてコメディの出来上がりである。
 残念ながら僕は体験しなかったが、エロゲーの名場面としてWindという作品の「問い詰め」がある。「ノラと皇女と野良猫ハート」では、問い詰めではないけど、パトリシアが魔道書の長い告白やこの「月」を力いっぱい叫ぶ場面があって(未知も似たような告白をする)、声優さんの熱演もあってとてもきれいである。そもそも僕は普通に生活していると大声を出したり出されたりするような場面はほとんどない。あったとしても不愉快な場合である。らぶおぶでもあったけど、重要な場面ではせりふが詩のようになってヒロインが神懸かりみたいになる現象は本当に素晴らしい。ストレスフルな問い詰めよりも、こんなふうにパトリシアの細い声で愛の言葉を大声でぶつけられたい。