この大空に、翼を広げて (65)

 空とか星を作品名に入れた爽やかそうなゲームが増えたなあと好ましく思いつつも、いまいちな感じのものばかりで見送っていたけど、先日安かったのでつい買ってしまったのがこれ。結論から言うと、パッケージから受ける爽やかな印象以上のすごさはなく、子供向けの小説みたいに健全すぎ、風呂敷をたたみすぎ、きれいに収めすぎで軽かった。ソアリングというものを知らなかったので、エンジンを使わずにただ風に乗って空に浮かぶということの魅力には十分引き込まれた。ソアリングは、空を飛ぶことが気持ちいいだけでなく、それを見ている者(キャラクターもプレイヤーも)も何らかの思いを抱きながら爽やかな気持ちになることができ、おいしいモチーフといえるだろう。それに音楽と背景画でいくらでもきれいに見せることができ、実際にこの点では(やや淡白ではあったけど)がんばっていたと思う。モーニンググローリーの上の金色の夜明けの空は、分かっていても壮大で美しい。ただし、文章が読みやすすぎ・主張しなさすぎで、退屈といえば退屈だった。青と白を基調にした大空、風、飛行機、風車、車椅子の美少女というイメージは爽やかなんだけどあざとすぎるので、何かまったく予想外のお話であればよかったのだけど、割とありがちな物語だった(浮かれては落ち込む亜紗のくだりはけっこうよかったが)。立ち絵が全体的に薄味だったのと同様だ。
 そんな中で個人的に救いになっていたのが、小鳥のキャラクターだ。こんなところにいたのか、アン・シャーリー!といわざるを得ない女の子だ。個別ルートに入るまで意識してみていなかったので気づかなかったが、まさにモンゴメリの小説から抜き出してきたまんまのような文章があってcomrade感が高まった:

「……ふむ、私はきっとリア充ね。 そう言って、ぶすり、と大きなイチゴにフォークを突き立てた」 「私って美少女だし……勉強もスポーツもできるから、もし足がこんな風になってなかったら、謙虚な気持ちで生きられなかったと思うの。碧くんは知らないでしょうけど、私って結構図に乗りやすい性格なのよ」 「こないだ、この自転車に乗ってる碧くん、初めてみたけど……超カッコよかった! シビレるくらい。私の王子様って感じ。あんまりカッコイイから、こないだなんて夢に見ちゃったくらいよ。……うー、こんなカッコイイ男の子が私の彼しだなんて、まだ信じられないわ。何かの手違いじゃないかしら」

 大仰な減らず口をたたく夢見る少女だ。アンは赤毛であることがコンプレックスだったけど、小鳥は足の障害がコンプレックス(というと不正確かもしれないが)で、アンが何かと鼻の形がよいことを自慢するように、小鳥は自称美少女、あるいは「くーるびゅーちー」である。こういう子がいると退屈しないし、場が明るくなる。いつまでもさえずっていて欲しい。
 星咲イリアさんのヒロインは僕にとっては実質的に初めてで(月に寄りそう乙女の作法の瑞穂お嬢様は色物的な設定のヒロインで、星咲ボイスの魅力が十分に活かされていなかったのでノーカウント)、とても美少女感のある声なので前から気になっていたのだけど、残念ながら気になる作品には出ておらず、今回の購入動機のひとつだった。いやあ、これが小鳥にぴったりだったんだよなあ。(残念ながら引退してしまった)高槻つばささん系といえるだろうか、高めの爽やかな声で、いわゆる「鈴の鳴るような声」というときに僕が想像する声に近い。この声で上記のような愉快なおしゃべりをしてくれるのだから、それだけで恩寵ともいえる。しかもエッチシーンもあるんだもんなあ(欲をいえば、胸は仕方ないにしても、もう少しむっちりしていてほしかった)。こんな女の子と空を飛べれば、複座式のコクピットだってあざとくないし、一緒に喜べるし、着陸後も「体が揺れているように感じるの。まだ空の上にいるみたい」と言われて僕もなんだか体が揺れているように感じられてくる。というわけで、文句を言いつつもFDもやらざるを得ない。


『この大空に、翼をひろげて』たった一つの青春がここに―