ボンジュール鈴木

THE BEST OF BONJOUR SUZUKI

THE BEST OF BONJOUR SUZUKI

 たまらず「やがて君になる」のOPを買ってしまい、ほどなくこのアルバムにも手を出してしまった。完全に「フィット」するわけではないことは分かっているはずだけど、僕はこういう買い方、すなわち何か曖昧な雰囲気みたいなもののにつかまってその幻影を求めてアルバムを買ってみてそれは幻影に過ぎなかったことに気づくような買い方ばかりしている。といってもあまり音楽は買わないほうだけど。
 思い返してみると、「ユリ熊嵐」のOPも耳に残っていたし、OPとEDがなかったら最後まで見ていなかったかもしれないくらいだったし、「くまみこ」のOPと「宇宙パトロールルル子」のEDも印象があった。だからアルバムにたどり着く前に手順は踏んでいたようだ。
 若い頃にジュディマリやチャラ(正確にはあいのうた1曲)にはまったが、好きだったのは声だった。歌詞とか美的センスとかはダメだった。嫌いというわけではないが、どう考えてもオタクの男が入り込んでよい世界ではないからだ。自分は存在してはならず、純粋な耳になるしかなかった。考えてみれば、それは百合の世界を干渉する男オタクと構図的には似ている。
 ボンジュール鈴木もこの系列になる。ある意味でさらに先に進んだようで喜ばしいのかもしれない。キラキラした伴奏の音色は閉塞感があってエモーショナルで、神聖かまってちゃんの音楽を女の子っぽく(実在しない空想上の女の子っぽく)して、しかもサビの部分は大半がかすれた裏声で歌っている(気がする)。技術的に歌唱力があるとかないとか、そういうことはどうでもよくなるような濃密な質感がある。ラップによる歌い出しが多いが、嫌いなラップでさえもこの声、このテーマならかなりすんなりと受け入れられることに気づいた。
 とはいえ歌詞はやはり「素面」で聴くのは難しそうだ。今朝、出勤前にアマゾンで買ってダウンロードし、通勤電車で聴いてみてが、いくらボンジュールといったって朝から聴くにはこってりしすぎている。以前に買ってしまってから何度も聴いている「ヨナカジカル」(「ステラのまほう」ED、これも百合的な雰囲気を持つ作品だ)と同じで、仕事が終わってから聴くべき歌、きわめてボンソワールな音楽だと思う。
 特に一番の目当てだった「あの森で待ってる」の歌詞は救いようがなく非実在的だ。例えば、「5番目のpupee "コレット"」のように丁寧に変態チックであれば、エロゲー的な世界観に近いので受け入れやすい:

毎週水曜日にハートマークして
ショーケースの中で ずっと待ってるよ
壊れちゃうまでいい子のふりしてあげるから
恥ずかしい言葉でも 何だって言うし なんだってやるよ

 ……というか、これは男オタクの存在が少し許されている世界か。それもまたありがたい。
 フランス語を使うクリエイターらしいが、突き抜けた「不適切さ」はフランス語やフランス的なセンス(?)を加えれば不思議と適切なところ(距離感)に収まるのかもしれない。ちなみに、歌のPVを観てしまう誘惑に抗うことはできなかったが、当然ながら観て後悔した。出来が悪いとか、ボンジュールさんの容姿がどうとか、そういう問題ではなく、そもそも実写の事物は映りこむべきではない成分で構成された歌なのだ。
 それにしてもきれいな音だな。好きな音を並べている。夢中で。夢の中で。こういう女の子的なナルシシズムはいいな。


 どんなふうに評価されているアーティストなのか知らずに書いた感想だったけど、音楽メディアでも似たような語彙で説明されているみたいで驚いた。個人的な発見のあったのでそれだけで十分だ。
http://veemob.jp/2015/11/30/boujoursuzukiinterview/
http://meetia.net/music/bonjour-suzuki-best/