燦々SUN『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』


 いわゆるなろう作家によるなろう小説的な作品ということで、文章の質は低いしロシアネタもところどころ違和感があるけど、女の子をかわいく描こうとしているしイラストがきれいなので読み進め、読んでいるうちに最後の方はべたなラブコメ展開ながら結構楽しめた。特に最後のイラストを使ったシーンの見せ方は個人的に禁じ手を食らったようなもので、ここまでやっていいのかとちょっと驚いた。このシーンだけはオンリーワンの作品といえる。
 銀髪ロシア娘というのはたぶんファンタジーにおけるエルフのような非実在青少年だろうと思う。エリツィンとかソビャーニンみたいな銀髪っぽいロシア人も若い頃は髪の色が暗かったので、白髪の一種だ。歴史上では確かマリー・アントワネットとかの時代の貴族が銀髪のかつらを好んでいたはずで、知性と高貴さみたいなものの証だったのだろうか。したがって本来は西欧の宮廷貴族をイメージさせる髪のはずだが、なぜかロシア娘ということになっている。他方でブロンドは、若い娘の場合は現代の性差別の文脈では正反対(知性の欠如や尻軽)を象徴する髪色とされている。銀髪がロシア娘の髪色になることが多くなってしまったのは、オタクの象徴体系におけるロシアの占める位置に由来しているはずなので現実のロシアとはあまり関係がない(たぶん多くの日本人にとっては現実のロシアというもの自体が現実感の乏しい記号のようなものなのだろうが)。同様にロシア娘(例えばクドリャフカとか)が孤独だったり真面目だったりするのも現実のロシア娘とはあまり関係がなく、そのせいであまりセンターヒロインにはならないのだが、それなりにおいしいポジションだとみることもできる。ちなみに、ロシア人が作ったヒロインが全員ロシア人のエロゲーには銀髪の娘はおらず、ロシア要素を強調されたセンターヒロインであるスラーヴャという女の子は健康的に日焼けしたおさげのブロンド娘だった。
 もちろん、現実のロシア娘よりも非実在ロシア娘の方が可愛いし(比較するのが間違っているが)、この作品のアーリャも可愛い。銀髪ロシア娘の銀色の髪は現実には存在しない髪であり(染めれば出せる色だが)、その髪を愛でる描写を読むときに僕たちは幻想上の髪を愛でていることになる。中世の聖像画家が聖母マリアの髪を自らの幻想を込めて描いたように。滋養が乏しい文章なので続刊が出たとしてももうあまり得るものはなさそうだが、どこかで見たことがあるような話を聖者伝を読むように読んで楽しむことはできるのかもしれない。あと、何気にウラジオ出身というちょっと現実感を出せる設定があるので、機会があればうまく活かしてほしいが、あの町を幻想的な美しさにつなげるのはけっこう難しいような気がする。