シン・エヴァンゲリオン感想 補補遺

 承前

 amboyuyaさんの「バカ映画としてのシン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇と洗脳の終わり」という感想とその続きを興味深く読んだ。これほどクリアにシンエヴァのダメなところ指摘していながら、なぜか最後に庵野監督に謝って作品を全肯定してしまう。確かにバカ映画かもしれないが、それで済ましてしまうとそれはもう優劣のある芸術作品というよりは、生き方を説く説教のような、あるいは作者から視聴者への直接的なメッセージや感謝のような何かになってしまう。これって本当にキャラクター達を救ったことになるのかな。視聴者は洗脳されていたのではなく、もっと大切な何かをもらっていたんじゃないのかなと思いたくなる。シンジや綾波の物語が終わらせられたからといって、僕たちは別のものに新たなシンジや綾波の影を見出すようになるだけじゃないのか。庵野監督がもう死や痛みの中にある美しさと向き合うことができなくなったのなら、他の誰かが代わりに向き合うだけのことなのでは。庵野監督はエヴァをこんな形で終わらせる必要は本当にあったのか。作品は完成した瞬間に作者の手を離れて一つの自律的なシステムになるというのに。そもそも何も終わっていないのではないか(あるいは始まってもいなかったのかも)。エヴァがそこにあった。今はその横にエヴァによく似た、しかしエヴァではない何かがあるということなのかもしれない。そう考えると僕は、死んだはずの綾波が新しくなって出てきて戸惑うシンジにもう少し共感できるかもしれない。「やっぱり綾波綾波だよ」と言えるのは相手が人間だからであって、作品相手には違った態度を取ってもいいようには思うが。
 宇多田ヒカルのBeuatiful Worldにちょっと言及したが、僕にとってエヴァの歌で一番よく聴いたのは綾波レイ版の魂のルフランだった。冷静にみると語りの部分がちょっとダサいのだが、サビの「私に還りなさい」以降の部分が本当に綾波が歌っているようで衝撃を受け、何度も繰り返し聴きながら「綾波に還る」感覚を夢想していたオタクだった。kame氏のHolidayやPortaitだったか、それともASAI氏のRei Ⅳだったかnac氏の2nd Ringだったか覚えていないが、クライマックスのページでこの綾波魂のルフランが自動的に流れるサイトになっていた気がする。あるいは「ここでBGMとして流れる」みたいな注意書きがあったのだったか記憶が確かでない。いずれにしても今から振り返ると微笑ましい演出だが、当時完全にイカレていた僕はさらにイカレてしまったのだった。やっぱり綾波は「ぽかぽかする」とか言ってる場合じゃないよ。「私に還りなさい」だ。「記憶をたどり」だ。「優しさと夢のみなもとへ」だ。「あなたが過ごした大地へと」「この手に還りなさい」「めぐり逢うため」「奇跡は起こるよ」「何度でも」だ。もう死んでもいいと思わせてくれるような存在でなくちゃなあ。それだと綾波自身は救われないとか、ぽかぽかしないとか、そういう話はいったん忘れたい。よくわからないけど、たぶん昔ワーグナーの音楽にはまっていた人たちもそういう気分だったのだろうし、象徴主義もそのような気分の中で流行したのだろうけど、ワーグナー象徴主義イデオロギーとしてもう死んでしまったとしても、個々の作品は生きているのではないか。だからテレビ版や旧劇場版の綾波が見せてくれたものは生きていてもいいのだと思う。
 半ばけじめのような気持ちで、2003年発売の庵野監督が監修したDVD-BOXをヤフオクで送料込み8000円くらいで買った。今まで僕が主に繰り返し観ていたのは、昔ヤフオクで3000円くらいで買った中国の海賊版くさいDVDであり(僕のエヴァに対する情熱はその程度だと言われてしまえばそれまでだ)、今回また観直してみて、映像が時々かすれたり音声が小さくなったりするのが気になったし、終わると風情のないチャプター画面に切り替わってしまうのがだめだったので、今更ながらちゃんとしたのを買い直すことにしたのだった。調べてみたらDVDのシリーズにもいくつかバージョンがあり、そもそももっと画質がよいブルーレイの廉価版が2019年に出たばかりだとわかったが、結局中古相場が手頃で、旧劇場版の禍々しい熱気を伝えるデザインやブックレットなどがある2003年のBOXがよいということになった。明日届く。ちなみに、ヤフオクでは同時にいくつも同じ商品が出品されていたが、登録カテゴリーの問題なのか設定価格の問題なのか、入札が集まる商品と集まらない商品が分かれていて面白かった。僕は早めに入札して目立ってしまうとまずい気がしたので、狙った商品に終了時間の2分前にこっそり入札して競らずに落とすことができた。
 ブルーレイもそのうち欲しくなるだろうか。先日テレビで放映されていたテレビ版は映像がきれいだったのでブルーレイ用のリマスター版だろうが、明るくクリアになったエヴァがちょっとすかすかに見えた気もした。大きなテレビで観たからかもしれないが、なんだか新劇場版のような涼しくさっぱりしてしまった感じもしたような気がする。僕が初めて観たエヴァテレビ東京の深夜放送だったはずだが、初めて買ったエヴァは確かヤフオクで落札したレンタル落ちのVHSセットだった。終盤でアスカが精神汚染されるエピソードでは、何度も一時停止と巻き戻しを押して出てくる文字を見ようとした記憶がある。VHSセットは確か海賊版DVDを買った後にヤフオクで売った。今は少しもったいない気もするが、再生機がないので持っていても仕方ない。
 ブルーレイのプレイヤーも持っていないので(エロゲーマーには必要ないし…)、新劇場版はDVDで買っている。シンエヴァもDVDで買うだろう。ブルーレイで全てを揃えたら、エヴァアニメの収集は完全になるだろうけど、2003年のDVDで終わらせるのもいい気がする。といっても、新劇場版も含めて、この先さらに何度もエヴァを観返すかどうかは分からない。5年に1回くらい観て懐かしがる感じかな。
 もう僕には綾波画像を収拾するくらいしかやることが残っていない。そして台湾のPainDudeさんという絵師がいい絵を描いているのを見つけて、思わず保存して写真用印画紙でプリントしてしまった。安物のプリンターだしインクの残量具合のせいか色のバランスが変わってしまい、全体的に青味がかった出力になったが、それはそれでよい。思えば、エヴァンゲリオンで最初にハッとさせられるシーンは1話冒頭で綾波の幻(?)が一瞬だけ現れて消える場面であり、それだけで「なんだこのアニメは…」と思った。その時から僕は綾波に囚われ始めた。この絵のオリジナルの色調は夏の夕方近くだろうか、夕立が降る前の暗くなった町中にふと綾波の幽霊が現れたようで素晴らしい。僕の青味がかった綾波の写真も朝靄の町中に浮かぶ綾波の幽霊のようで、儚くてきれいだ。