アイドルと視線(アニメ雑感)

 最近は家族が家にいないこともあって、アニメ視聴のペースが維持されている。それにしてもアイドルものが増えたと思う。僕が主に観ているプラットフォーム(ニコニコ動画の無料配信)で増えたというだけなのかもしれないが、アイドルものの面白い作品が増えたように思う。女の子が歌を歌ったり踊ったりというのはけいおんとかハルヒとかから増えるようになったのだろうけど、最近は演奏シーンに力の入ったものが多いように思う。
 というわけで、「ラブライブ・スーパースター」の話をすると、記憶に残るのはあのあざとくてちょっとおかしな振付の数々だろう。ショービジネスというよりは学芸会の出し物に近いような気もして恥ずかしいのだが、それを信じ切った幸せそうな笑顔で女の子たちがやってのけるので視聴する側は共犯者にならざるを得ない。ラブライブの空間はとても壊れやすいものだと感じさせるところが、熱狂的なファンが多い理由なのだろう。もちろん、単に女の子たちが可愛いから見ていて幸せということもあるだろうし(メインヒロインのかのんの歌声はよいし、まるい子の主張の強いまなざしも印象的だし、可可という中国人ヒロインは中国人に見せても恥ずかしくない可愛さだし、へあんなさんは主人公回でライブも含めて素晴らしかったし、会長はまあ会長だし)、似たような質感のキャラデザだけどそれぞれの個性がうまく差異化されているのでかけあいを見ていて幸せということもあるだろうけど、単に可愛い女の子たちの日常を見せるというのではなく、ライブ、つまり儚い生ものを作り上げている秘儀の空間を共有させてもらえるということがある。
 それにしても、アイドルものは見られること、視線にさらされること、視聴者からは見ることや視線で覆いつくすことを欲望としてつきつめたジャンルであって、だから昨今CGでも可愛さをある程度維持できるまでに技術が発達したおかげで今の隆盛があるのだろうけど、今放送されている「セレクション・プロジェクト」のように視線と存在理由を直結させてむき出しにしてしまうと(生活の全てを匿名の不特定多数にさらけ出して採点してもらうアイドルということらしい)、不条理で不気味になってくる。それでもメインヒロインの女の子のキャラデザがオーラのある可愛さなので見てしまう。
 こういう過激な視線物の作品をみてしまうと、なろう系のファンタジーとかサクガンやルパンのような絵や設定に独特のセンスを感じる作品もどこか牧歌的に思えてくる。
 といっても、今一番楽しんでいるのはたぶん「白い砂のアクアトープ」だろうな。これはニコニコの遅い配信では待てず、先日はテレビでも見てしまった。夜中に部屋を暗くしてテレビをみて余韻まで含めて楽しんだのは久しぶりだ。一番印象的だったのは第11話、くくるが打ちのめされて水族館の閉鎖を受け入れる話で、思わずツイッターでも感想を漏らしてしまった*1。これ以上の盛り上がりはもうないだろうなと思いつつ2期も見始めたが、意地の悪い先輩のはえばるちゆさん(南風原知夢と書くらしい)が痛みを抱えたシングルマザーだとわかる第16話のこの絵でやられてしまった。

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この作品もメインヒロインの一人が元アイドルだったり、水族館というもの自体が視線によって成り立つ空間であったりするわけで(飼育員は視線を投げると同時に視線にさらされる一種のアイドルである)、視線物のアニメということもできるのだが、くくるはいつでもこの星空に見守られているということが控えめながらうるさいくらい鮮やかに示されていて、いい絵だなと思った。このアニメのファンクラブに入りかけた。この作品の水族館や沖縄の星空は、作品世界の中にしか存在しないのだ。そういえば、くくる役の伊藤未来さんという声優さんの声には「安達としまむら」の時から惹かれていたのだった。低めの裏声みたいな声というのだろうか、しまむらのようなマイペースな感じがよかったので果たしてくくるみたいな元気な女の子でよさを活かせるのかと思ったけど、笑っているような泣いているような複雑で無防備な声が素晴らしい。くくるはまわりがあまり見えていない、視線に鈍感な女の子で、思うようにいかない人生をがんばって切り開いていっている。その必死さがそのまま表れた声だ。アニメを見てばかりであまり外に出ない生活をしていると、世界はこんなに善意で満ちているのに、人は何でこんなに思い通りにいかなくて苦労しなくちゃいけないのかなと思ってしまう。優しくいられるときはなるべく優しくいないとなあ。

*1:白い砂のアクアトープ11話。傷つけられて優しくならざるを得ないくくると、水族館とか台風とか朝の海とかのいろんな水の青いイメージに囲まれている感じが、凪のあすからをつくった会社の作品だなあと実感させる。大人になりきらないくくるが去勢されてしまう悲しさは同じ水の青さの中に溶けていく。<9月22日、昔の凪あすからの感想はこれこれ。>