アニメ『瀬戸の花嫁』

 夏の終わりに。
 キャラクターが絶えず大声を張り上げている騒々しいラブコメで、子供向けのギャグやリアクションが多くて乗り切れないところもあったが、終わってみると楽しかった。暑苦しい男キャラたちにもいつしか慣れてきた。北斗の拳とかターミネーターとかギャグマンガっぽい猿とか御曹司とかメガネ委員長とか、ネタがたぶん当時としても古かったりするけど、そもそもヤクザものというジャンル自体が昭和なのであまり新しさをどうこう言っても仕方ないところがある。悲しいかな、既にエロゲー老人になりつつあるので、エロゲーパロディ回でKanonとかAirとかのパロディがでてきたら普通に楽しんでしまった(政さんの「お兄ちゃん…」で笑った)。原作マンガが連載されていたのが2002年から2010年、アニメは2007年ということで、今から思えばアキバカルチャーが一番注目されていた時代だった。その明るさというか楽天的な雰囲気がよく似合う作品だった。騒々しいギャグも、声優さんたちの熱演として心地よく聞けてしまうところがあった。永澄や燦ちゃん、政さん、お父さんズは当然として、るなちゃんも巻ちゃんもみんなよくがんばった。桃井はるこさんと野川さくらさんのOP主題歌もアニメともども好きで、毎回あの夏らしいイントロで引き込まれ、ダンスのシーンを思わず見てしまう。
 ギャグセンスはかなり違うけど、勢いと雰囲気は僕にとってのギャグマンガの原点であるザ・モモタロウに似ていたのも懐かしさの一因だ(今回思わず古本を買い直してしまった)。筋肉がたくさん出てきて暑苦しいところも。ラブコメというところでは、これまた今となっては懐かしいラブひなを思い出したりした。
 あとは何といっても方言だった。これがあったから見続けたといってもよい。香川県あたりの方言らしいのだが、僕にとってはこの辺の瀬戸内海の方言は香川も愛媛も広島も区別がつかず、小中学生の頃の夏休みの帰省の記憶に結びついている。自分は永澄くんのような中学生ではなかったし、人魚にも極道の組に遭遇したこともなかったけど、毎年夏休みに東京から帰省する父の故郷の小さな島に、強烈な広島弁を話す少し年上の従弟三姉妹がいて、燦ちゃんのお父さんにちょっと似た感じの彼女たちのお父さんが酒で焼けたようなガラガラ声の広島弁で、東京や大阪から遊びに来た甥の男の子たちを歓迎してくれた。砂浜のような黄色い砂が散る坂だらけの細い道、そのわきの溝を這うカニ、黄色い砂だらけの神社前広場のお祭り、墓参り、潮風、夏の海と強い日差し、砂浜に打ち上げられたクラゲ、泳ぐと足に触れる黒々とした海藻の海、ミンミンゼミ、アブラゼミツクツクボウシクマゼミ、未舗装の細い山道を上がる不思議な農業作業車、蜜柑山、ラムネ、海釣り、船酔い、車酔い、甲子園中継。今思えば贅沢な夏の記憶だ。アニメでは瀬戸内海が舞台なのははじめの2話くらいで、後はだいたい埼玉県の中学校の話なのだが、OPアニメのおかげで瀬戸内海の夏の気分が思い出されて優しい気持ちになった。他の視聴者は少し違っていたのかもしれないが、やはり燦ちゃんや瀬戸内組の面々のおかげでだいたい同じようなものを見ていたと思う。そういえば、従姉妹たちのうちで一番元気だった末娘は東京で結婚して割と近くに住んでいるので、いつかDVDを貸して彼女の息子たちと一緒に観てもらうというのもいいかもしれない。
 後日出たOVAは映像が丁寧で話もいつも通りのクオリティなのだが、一度完結した物語の後で中途半端な日常回が数回入ったみたいになっていてすわりが悪かった。あと、原作者さんのプロフィールをみたらこの作品で燃え尽きてしまったみたいになっていて、ツイッターをのぞいたら元気そうだったけど意味がよく分からなくて少し悲しくなった。Wikipediaの制作の経緯とかによると、関わった人たちが単なる仕事以上の熱意と愛情を注いだ作品だったようで、いいものを見せてもらった。

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