いまさらのNHKにようこそと牧野由依ボイス

 先日、ふと思い出して買ってしまったアニメ『NHKにようこそ!』(2006年)を観始めた。もう15年も前のアニメ、そして原作小説は20年前の作品であり、時代の向こうに流れ去ってしまったのかもしれないが、僕の中に残っていた当時の感情はすぐに戻ってきた。いまだに現役の作品であることを嬉しく確認すると同時に、その後の僕の人生の生活圏や行動範囲がこの作品の舞台に近いところばかりで、8話の「中華街にようこそ」で最近行ったばかりのみなとみらいや中華街が出てきたときには(2006年当時にはまったく縁のない場所だった)、親からは最近白髪がずいぶん増えたと心配されるほどおっさんなのに、自分はいまだにNHKにようこその聖地巡礼をしていたのか、ほとんど呪われているんじゃないか、とちょっとショックを受けた。そして現役でありながらも、時代の空気を色濃くまとっている。それはときどき崩れる作画や滲むような色彩に表れているように思えるし、アキバ・オタク文化が世間で認知されて盛り上がっているようにみえた、明るくて勢いのあった時代の描写にも表れているようにみえる(対照的に佐藤と山崎の生活はひたすら暗く、それこそがこの時代のリアルな雰囲気であったことも含めて)。こんだけエロゲーで盛り上がり、エロゲーで驚き、こいつら楽しそうだなあ、楽しかったなあと思い出される。この前のシュタゲと同じで、今の自分にとってもいい位置に収まる作品になっている。とはいえエロゲーの時代は過去のものとかいう言説はわりとどうでもよくて、いまでも僕の部屋には未プレイの作品がいくつもあるし、古い作品を再プレイすることも不可能ではないのだが、これからは生活スタイルを変えなければならなくなるのでこのまま埋もれていってしまうものもあるのかもしれない。でもサクラノ刻の予約はそろそろするかな…。
 あらためてアニメを観返すと、オープニングアニメと歌の素晴らしさを感じる。顔がよく見えない若い女性たちが開放的な足取りで何度も画面を横切るのだが、これはオタク的というよりはファッション雑誌のモデルのようなデザインで、今の言い方に直すなら陽キャの女性たち、オタクがモニタの向こうにみる外の世界の女性たちであり、特にオタク的な性欲の対象にはならないけど屈託がなくて眩しい存在だ。全体的にオープニングアニメはとんでもなくさわやかでカラフルな色調で満たされていて、陰のある佐藤や岬ちゃんもポップアートのように軽やかで明るく描かれている。その後に続く屈託しまくっている本編と対照的過ぎて、オタクが幻視する夢、切ない祈りのように思えてくる。歌も爽やかで、低音男性ボイスとのハモりが優しい。
 とはいえ、この作品は何といっても岬ちゃんだ。改めて観るといい声をしている。柏先輩とか山崎とか、他の声優さんの演技も素晴らしいのだが、やはり岬ちゃんは魂のヒロインであり、天使の声をしていることを再確認する。いまさらながら牧野由依さんのCDを2枚買ってしまった(もう一枚買ったのだが手違いで別のCDが届いて返金された)。『天体の音楽』と『マキノユイ』という初期のアルバムだが、これ半分岬ちゃんが歌ってるだろと思える瞬間が多い。当時はなぜかCDを漁るという方に頭が行かなかったが、声優の音楽CDとしては割と品質が良い方のようなので、しばらく聴いてみたい。これまで坂本さん、堀江さん、悠木さん、小倉さん、花澤さん、上坂さん、東山さん、麻倉さんなどいろいろな声優の音楽CDを聴いてみたが、声はともかく、伴奏や編曲などの楽曲の質がアルバム全体を通して高い水準にまとまっていると思えたのは花澤さんのCDくらいで、他は明らかにこの声に合ってないだろというような曲や手抜きの曲が多くて、歌詞も薄っぺらくて、がっかりさせられがちだった(僕の好み的に声をじっくり聴きたいのに、アップテンポに声を張り上げて個性が消えている曲とか多い)。牧野さんが声優として、歌手としてどう評価されているのかよくわからないが、あまりメジャーではないようで、強烈すぎた花澤さんに持っていかれてしまった知る人ぞ知る可愛い声の声優という感じだろうか。僕の中では岬ちゃんの人という認識になっていて他の役のことは知らないので(あとアクエリオンのザーウミの歌が印象的)、この人が歌う全ての曲に岬ちゃんの存在を感じ取ることができてありがたい。先日、所用で地方に片道300kmのドライブをして帰りは一人だった時には、眠らないように高速で牧野さんのCDを大音量でかけながらぶっ飛ばして、NHKのエンディング曲を感慨深く聴いたりした。直近のアルバム(といっても2015年)では傾向が変わって非オタク向けっぽくなってしまったようだが、できれば岬ちゃん路線を大切にして歌い続けてほしい。