猫撫ディストーション ギズモ


適当な感想垂れ流しです。あとネタバレもあるかも。


 あまりよく覚えていないのだが確かくきゅの字椎奈にとって家族というシステムは隙のない牢獄のようなものだったはずで、そこから先に行こうとしていたというテーマからすると、この作品の壊れた家族を修復するというテーマは割と分かりやすくなってしまっているようで物足りなさを感じてしまうかもしれない。
 声もグラフィックも一番可愛かったので飛びついたギズモシナリオだが、ひょっとしたら後回しにしたほうがよかったかもしれない。野生の出自を持つから一番肉体的で具象的なはずのヒロインなのに、実は言葉という実体のない魔術で編み上げられた一番不安定で可能性的な存在であることを掘り下げるシナリオ。言葉を共有することで世界を共有する(と同時に世界の断絶を意識する)というコミュニケーションの基本への言及で作品世界をプレイヤーへと開くという作業自体にはそれほど革新的なことはないのかもしれないが、それをはっきりとヒロインの口から聞かされる行為はやはりなんとも夢のあふれることだ。なんとか半径の中でずっと落ち続けることにも「まっすぐ歩き始める」ことにも乾いた絶望の匂いがする。ただしそこにギズモがいなければの話だ。猫はある程度近くにある動くものしか認識できないという。ギズモがいつもびっくりしたような顔をしているのは事物が急に出てくる恐ろしい空間の中にいるからで、言葉を共有してその空間が「世界」へと変わっていく中で、びっくり顔もだんだん減ってくるだろうが、代わりに不確かで万能の言葉の世界を通して彼女の温もりを常に感じることができるのならばそこには希望が見える。可能性についてのシナリオなので「かも知れない」とか「ならば」みたいな言葉だらけの感想になってしまったが、彼女が残したアリアドネの糸みたいなものはこの手の中に確かにある。