ハルカの国 大正決戦編

 連休が終わって時間を取りにくくなり、小分けして読んでしまったせいか、全体としては面白かったけど、少し散漫な印象を抱いてしまった。物語としても、これまでの伏線に決着をつけるような展開(ハルカとユキカゼの関係、愛宕という国の危機)や今後の展開の伏線(人間の国による干渉)といった作品の前後につながるような要素が目立ち、この章の内部で完結するような要素である風子(と八千代)の物語は面白かったけどややインパクトが弱かった。余呉の里での竹細工の話、「幽霊」のように消されていく狗賓という存在、イカズチ丸の秘祭、狐の里の話などのエキゾチック要素ももちろん面白かったのだが、このシリーズのレベルが高すぎて慣れてしまった観があった。こうしたイベントをハルカとユキカゼが普通に通過してしまったからかもしれない。二人はもう、大きく変わることはないのだ。
 冒頭のハルカのコミカルな喜びようが楽しかった。その反動で、ヒコでの30年を「何もできず、失敗だった」と振り返るのは寂しかった。
 風子ははじめはちいかわみたいだなと微笑ましく見てたことろもあったのだが、彼女自身の苦しみややがて明かされていく背景をみて感情移入が深まっていった。星空のCGはよかったし、最後のトラユキの写真もよかった。次章以降にも登場してほしいな。
 八千代はユキカゼとの焚火の前の会話で普通に盛り上がっていて何だか笑えたのが印象的だった。ユキカゼに対する見方が風子と同じというのもよかった。おトラの話まで出てきて。「最後まで話すと湿っちまうけれど、楽しいこともあったよな。笑えることもあったよな」
 ハルカとユキカゼは結局、愛宕の国における客人であるまま、この地に埋もれていくようにみえる。「とにかく、そういう荷物になるもの抱えて、なんとかかんとかやってきたという自信のような。人から見ればよいものでもない、生きているうちにたまった錆びのようなものがあって。そういうもの、あるな、と思っていると。寂しいのだけれど……寂しくても、生きていける気がしたんだよ。このまま最後まで、歩いて行こうと思えた。それが、嬉しかった……」というユキカゼの感慨。全ては過ぎ去ってゆき、どこにも「帰るべき本当の故郷」なんてものはなく、誰もが自分の人生を客人として生きていく寂しさがまた染み入るものがある。
 次章以降は時代が戦後の昭和に飛ぶとのことで、エキゾチック要素は期待できない(キリンの国にはまだあったが)。昭和の物語を楽しく読めるのか分からないが、最後まで見届けたい。でもこのまま落ち着いた感じで終わってほしくはないな。その前にまずは完成を待たねばならないが。