ネコっかわいがり! (60)

 オスカー・ワイルドの名前を知ったのは大学生の頃に「サロメ」を読んでからだったはずだが、子供の頃にどこかで読んだ「幸福の王子」の作者でもあることを知って驚いた気がする。「サロメ」の後に「幸福の王子」を読んでいたら、あざとすぎるのではという疑念を抱いてしまっていたかもしれないが、子供にとっては「幸福の王子」はひたすら痛ましく美しい話で強い印象を受けた。
 その意味では、「ネコっかわりがり!」をプレイしたのはちょっと順番が遅かったかもしれない。あざとさを感じてしまった。とはいえ大好物のはずの逃避行物である。逃避行パートが短かったのは残念だが、退屈だったといえば嘘になる。先生が「伏せ」と何度も叫ぶ場面には心を打たれた。こういうところは声の直接性が前面に出るから、あざといとか悠長なことは言ってられないんだよな。ウミの「うううううううううう」も素晴らしかった。ウミとナミの声(あさり☆さん)は全体的に素晴らしく、双子のセリフがリフレインして二度聞けるのでなお良かった。音楽も種類は多くないけど快適だった。絵も高水準で、特に最後のシナリオの先生のエッチシーンの一枚絵は、何だか神がかった絵が続いて、ロリ愛の気迫を感じた。
 あざとさを感じてしまったのは、この悲劇がキャラクターにとっての内在的な必然性を持たず、単に外部から襲ってきたものに見えてしまい、設定として露出してしまったからということもできるかもしれない。世界を救うっていわれても、というふうに。みんな一応影らしきものを背負っていないわけではないのだけど、主人公が何も分からないのであまり見えてこないし、性欲がらみのお話が多くてあまり膨らまなかったというか。とはいえ、まずはあまりにもきれいで脆い偽りの安息をもっと惜しんでみるべきなのかもしれない(特にフェイルートの最後がきれいだった)。それからこの物語とその後日談の悲劇の意味の分からなさも含めて受け止めて、もう少しヒロインたちについて考えてみたい秋の夜更け。