こころリスタ! (マリポ)

 あの口みたいな栗をしているときの立ち絵。あれほど防御力の低い立ち絵は見たことがない。こちらを指差し、攻撃的な威圧感を与えようとしつつも、体をひねって半分横向きになっていて、腰が引けているような、当て逃げをしようとしているような弱気さが思わず出てしまっているような絶妙なバランスが、笑えるし可愛すぎる。そして――マリポ先輩に限ったことではなくこの作品のヒロインはみんな多かれ少なかれそうだが――身体のねじれによる動きの感覚も素晴らしい。Carnivalの絵にもあったようなダイナミックな感覚だ。
 すぐに言葉に詰まる防御力の低さも素晴らしい。「じゃ、じゃあ、これより……ち、契りの儀を執り行う」じゃないでしょ。うろたえすぎでしょ。「これより」ってなんだよ、というような感じでつっこみどころばかりで幸せになる。落ち着いて話すときも実感がすごく伝わってきて、ライターさんがよい仕事をしているということもあるが、声優(卯衣さん)の声音や間、スピードが心地よくコントロールされていて、聞いていて気持ちがいい。高島ざくろ神とか須磨寺雪緒神とかもそうだが、独り言気味の言葉をふわっと話す女の子の声には、いつも耳を澄ましていたような気がする。マリポ先輩の声は、自分に向けられているはずなのに思わず洩れちゃった感があるというか、こちらも、そういう人に聞かせるためのものではない言葉を思わず聞いてしまった気がするというか。「ふふっ……はぁ……こんな若くて激しいカレシ……これから大変だよ……バカ……」って、あなたと1歳しか違わないでしょ!というか嬉しそう過ぎてこっちまでニコニコしてしまう。声の質も、芯がなくて弱そうで夢想的で素晴らしい。純度的なものに惹かれるオタクとしては当然落ちざるを得ない。魔性というやつだろう。
 そもそもマリポ先輩は、何気に健全で如才ない主人公などよりもずっとディープでいじけたオタクであることが、可愛さの元凶になっている。告白されてうろたえて散々逃げていたのに、主人公がやけになってナンパしていると聞いて、速攻ですっ飛んでくる。早歩きのオタクのようなもので、初デートでの行動がいちいち唐突で笑える。「破局的な案件」になると想定しすぎて、聞かれてもないのに悪いところばかり告白しようとする。いきなり深刻そうに身長を低くサバ読んでたことを告白する。いきなりプールにいって水着になり、パッドのことを言い出そうとしていた節もあるが、普通に雰囲気に流されてプールを楽しんでしまう。映画を見たらご機嫌でせりふをまねする。唐突に部室に行って捲り上げる。バトルシーンでピンチになっても、主人公との絆を思い出すとかではなく、「ああ……二次元男子たちに……癒されたい……」とか弱気なことを言っている。見ていて飽きることがない。こんな風に自分のことだけでもいっぱいいっぱいで、とても相手をリードする余裕などないくせに、本人はそのつもりで幸せ。余裕がないのは自分なりに一生懸命理想を追い求めているからだ。これこそオタクの幸せなのではないか。エピローグ前の最後のせりふが「あ、母さん? 昨日は…………ごめん」でフェードアウトしていくのが印象的だった。7年たってすっかり大人になったマリポ先輩は、それでもきっと、まだどこか抜けたところがあるのだろうと想像して温かい気持ちになる。