秋山瑞人『Dragon buster 01』

龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

 もう一定の水準まで洗練されていたはずの秋山氏の文章力が、今作では別の魅力を持って進化していて、その物書きとしてのスタミナに恐れ入る。時代小説や古典の素養がないのできちんとした判断ができないが、この小説の「中華秋山文体」の読み応えには本物の感じがした。設定の説明を説明と感じさせない生きた言葉。典雅だったり猥雑だったりする自由自在な文章は、都の暑苦しい空気やキャラたちの汗や息遣いや動きの諸々を活写して濃密な言語空間を作り上げている。昔読んだ老舎の『駱駝のシャンヅ』を彷彿とさせるが、それを漢語調の美しさを堪能させながらも流れるようなリズムでやってくれるのが素晴らしい。剣の稽古の神がかった動きの描写は実際にはどうなっているのか分からないけど、言語表現ならではの引き締まった美しさがある。妾(わらわ)っ娘の男言葉がここまでうまく決まるのも秋山氏ならでは。風流な蔑称/愛称の月華(ベルカ)って中国語なのかな。belkaならロシア語で「リス」なんでイメージにぴったりなんだけど。変な中国語っぽい固有名詞の数々もこの文章の中なら美しいと感じられる。あんまりにもよくできすぎていて正直なところ感想を書きにくい。最近の娯楽小説はここまで進化しているのか、それとも秋山瑞人はやはり一線を画しているのか。次巻(最終巻?)ではイリヤの空のときのような抒情的な方面に突っ走る局面も出てくるだろうけど、この巻の力強くて綺麗な文章だけでもありがたい賜物として感謝。次に秋山瑞人の新刊を読める悦びはいつ味わえるだろうか。