中村九郎『黒白キューピッド』

黒白キューピッド (集英社スーパーダッシュ文庫)

黒白キューピッド (集英社スーパーダッシュ文庫)

 ゲームに熱中しながらも、見ていてくれるよう頼まれたので仕方なく「ランナーを牽制するピッチャーのように」ヒロインをチラ見する加藤に笑ってしまった。こういうのは中村九郎しか書けない。デビュー作から言葉の鋭さで勝負していることが分かって頼もしい。最近はちょっと大人しめだけど。登場人物の底の抜けたフリーダムでやけくそな爽やかさ、奔放な少女の恐ろしさも全開。後作に比べると幕切れがやや大人しいものの、ツァラトゥストラの哄笑が聞こえてくるような愉快な小説だ。