朱門優『ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。』

 秋山瑞人朱門優の新刊を買おうと思って近所の本屋に行ったけど見つからず、ついに池袋のジュンク堂まで行ってやっと入手。ついでにずっと前から探していた『黒白キューピッド』も見つけてホクホク。『黒白』は1年くらいジュンク堂になかったはずだけど、入荷していたのはやはり初刷だった。表紙をめくった扉絵が中村九郎テイストによく合っていて笑える。あとがきもヤバくていい。あとは、娯楽の少ない北国へいかれるプラトン・カラターエフさんに日本語の勉強のために時代劇と音楽CDを頼まれたのでブックオフに行った。ポップスなんて最近は聴いていないので、結局自分の手持ちの中から多少ともいいと思えるものを作ってあげることにした。田中理恵百人一首KOKIAのpearl、ジュディマリのベストアルバム、霜月はるかのあしあとリズム、White-lipsのClass words、Liaの夏影。まだ他にも候補はあったけど今回は間に合わず。気に入ってもらえるだろうか、60歳のおじいさんに・・・。時代劇はお手ごろなのが見つかった。ついでに自分用に、エイリアン9のアニメ1巻と2巻が500円で売っていたので買ってしまった。確かこれ完結してないんだよな。


 朱門さんの小説の方は、いい意味でも悪い意味でも自重せずエロゲーの文法が持ち込まれている印象。「日常シーン」の主人公のモノローグのお気楽ツッコミキャラっぷりがもったいない。このタイプの主人公にはきっとジャンルとしての歴史的および理論的必然性があるんだろうけど、それにしてもせっかく言葉が好きな作家さんなのだから、ここはもう少し自覚的に読み応えのあるものになるような工夫が欲しい。
 この野暮ったい語りを除くならば、いつ空でも発揮された魅力は今作でも十分出されている。絵が淡くてきれいな感じなのもあるかもしれないが、神話物が好きな人にやさしい設定、花やシャボン玉や空模様のきれいで不思議な雰囲気、途切れ途切れの記憶。ゲームとちがって音楽はないけど、町という空間をうまく設定で囲い込むことで、不思議なやさしい雰囲気が絶えず感じられた。うん、不思議とかやさしいとか繰り返したのにぜんぜんうまく説明できない。普通にエロゲーのセオリーに則った話なのに、作家さんの個性が滲み出ているのはどういうわけなのか、よく分からない。神話的な設定と恋愛プロットの組み合わせ方に癖があるのかもしれない。ふたみや此芽がかわいいように、いちこもかわいい。(傘も好きだけど、かわいいというのとは明らかに違う。)
 ボレアスといえばアクメイズムの詩集を出していたギッペルボレイ社の暗めパルナシアンなイメージしかなかったので、こんな優しい話を読めてよかった。