さかしき人にみるこころ (75)


 (大体終わったのでちょっと加筆。そういえば、一言書いておいたほうがいいかもしれない。この作品はR.U.R.U.R同様要求スペックが結構高く、外付けHDでやっていたらフリーズするので強制終了というのを何度か繰り返していたら、ノートパソコンが壊れて再インストールという惨事を引き起こした。また、ウェブ認証があるので、僕のようなエロゲー機をネット環境にないノートにしている外付けHDユーザーにはやさしくない仕組みで、普段と違うパソコンでやらざるを得なかった。これからはこういうのが増えるのだろうか。)
 確かに僕は何か恋愛的なものがしたくて、もっと言えば恋愛がしたくてエロゲーをやるわけだけど、その恋愛の部分だけを膨らませて、エンターテイメントとしての明るさを保ちながらもリアリズムを持ち込むとどうなるか。好きな相手に対してどう振る舞い、どうやって心を通わせていくか、その時の自分はどう見えているか、それが大問題となってそれを第一として生活することが許される環境。エロゲーゆとり教育
 今朝方見た薄ら寒い夢…モスクワで羽を伸ばしていたら、来週から仕事だったことを急に思い出して、月曜日の飛行機に乗って火曜日に日本に帰るといって現地のメンバーと別れなくてはならなくなる・・・平日を移動日に使う後ろめたさ・・・なんとなく佐藤友哉の名前が思い浮かんだ不安な夢だった。
 リアリズムといっても実際に自分の実体験と照らし合わせてそっくりなところが多いとかそういうわけでもなく、現実はもっとかっこ悪いのだけど、あの期待しながら歩み寄っていき、選んで発した言葉の一言一言に一喜一憂し、彼女の新しい一面を発見しては喜ぶという初々しい感情の動き方が、何だか身に覚えがありすぎてふと立ち止まりたくなる。いちいち言語化して自分も相手も納得していることを確認せずにはいられない女々しさ、打たれ弱さ。自分がいくつかの分野について偏った情熱を持っているのと同じように、彼女も何かのオタクだったことを知ったときの親近感。
 知性派ヒロインといっても理想的に知性派なわけではなく、青山ゆかりさんの演じ方のせいかは分からないが、硬い言い回しを使ってみたさ具合が子供っぽい感じもする。いわゆる守りたいタイプや甘えさせてほしいタイプのヒロインではなく、「一緒に走りたい」タイプのヒロイン。二人で一緒のものを見て、幻想を共有して、それに向かって一緒に走ってくれる彼女。その夢は幻想かも知れず、「一緒のものを見る」は「お互いの価値観を評価する」に、緩やかな諦念と罪悪感と共に変化するかもしれないけど、この作品のカップルはそんな過ちは犯さない。自分がそのズレに気付くこともヒロインがそれに気づいて引き気味になることも、二人でそれを何とか埋めようとなおさら歩み寄って優しくなることもない。自分が挑発すれば必ず乗ってきてくれ、その組み手はいつも心地よいリズム。「誘惑」に乗ってあげられないときに謝るさまのなんという・・・他の言い方はないものか・・・甘やかなゆとりぐあい・・・。彼女は自分と「同じタイプの人間だ」という嬉しい確信が主人公を見捨てることはない。僕が昔夢見たことをやってのける主人公・・・。
 それだけに、最後のあれは何だろう、作者の皮肉だろうか?なんでヒロインのモノローグで主人公が「このひと」なんだろう?「あなた」じゃないの?そしてなぜそれをプレイヤーに聞かせるのか?ここまで妙にリアリズム?・・・。図書室での出会いでどう振舞うかから始まり、彼女の「考え」につくか「気持ち」につくか、メガネは取るか着けたままにするか、ドアを開けさせるのにどう話しかけるかと、いちいち考え込まされた。彼女を手に入れるための最後の一歩は結局「信長」なのかよと思い、でも結局彼女もそれを待っていたのかもしれないと思い直し、なんていうことをいちいちやりながら「攻略」したのに、結局主人公に寝取られてしまったような・・・。立ち絵もあるしな・・・。エピローグで二人はプレイヤーから遠ざかる。見事に転身を遂げて仕事も充実している二人。絵に描いたような幸せな家庭。アリマスカ、アリマセンカ、アレハナンデスカ・・・。ここまで書いてくれたのだから、別に作者に対して怒るとかそういう気持ちにはなりようもないけど、やはり読み終えると自分に跳ね返ってくるところはある。
 エロゲーに恋愛を求める。でもエロゲーにリアリズムを求めるのはありなのだろうか?凡庸な結論でいいなら、「リアリズムでよい人にはリアリズムでよい、でもそんな人がエロゲーにはまるわけない」。鍵ゲーが見せてくれる幻想的な恋愛。「心の底」で繋がった、ヒロインとの秘密の契約。リアリズムな本作に「秘密」はないように見える。異世界を出して圧倒するのではなく、こうあればいいなという可能性を突き詰めた話だから。奇跡も狂気もメタも殺人もない。
 別の話をしてみる。本作はエロいのだろうか。グラフィックな意味ではあまりエロくない。体に弾力があるけど、バネみたいにデフォルメされている感じがする。勢いのある鋭角的な線。エロシーンは多く、お互いが真摯に楽しんでいる感じがする、「自分と同じタイプの人」とする心のこもったエッチ。相手の新しい一面を見ては喜ぶ。そこまで疎外されているわけじゃないけど若干誇張して言うと、でもそれを読み進めるプレイヤーはどうなの、という問題が出てきてしまう気がする。ある種のゲームがエロシーンが申し訳程度の薄いものであっても燃え上がってしまうのは、それが「秘密の契約」を交わしたヒロインとのものであるからで、そこに至るまでのストーリーは長い長い前戯ともなるから。自分と同じタイプの相手を見つけて心を通わせて一緒になる、という打たれ弱い人間の夢は本当に最高の幸せなのだろうか?この作品はそこのところを描く力のあるライターさんがけっこうしっかりと描いた話なのだろうけど、その答えは保留のまま。というかそもそも答えはないような気がする。
 たった今書いたことと矛盾するかもしれないけど、本作に「秘密」がまったくないということはない。作品がテクストである限り、テクストの余白や行間というものは必ず生まれる。さっきからわれながら胡散臭く連呼しているリアリズムというものにしたって、それはある志向性を持ったリアリズムであって、全ての神秘を解明しつくせるわけではない。神秘というものを明示しないところまでエロゲーの恋愛は来てしまったか、という感慨がまた、どこかに新たな神秘を見つけるのだ。本作のエッチシーンに音楽の一つにR.U.R.U.Rと同じ感じの「朝雲暮雨」という曲がある(作曲家は同じ)。どこか、時の流から切り離された場所で夢を見ているような、気の遠くなるような音楽。それだけで、このリアルな(まあ、リアルといえば語弊がありすぎだけど)エッチはどこかありえない、かなしくもきれいな響きを持ってしまうことになる気がする。そんな夢が許されなら、というかエッチシーンだけではないそんな夢みたいなものが、いろんな部分をひっくるめてこの作品を昇華させてくれると思う。