誤配

 今日の朝日新聞に亀山訳『罪と罰』の大きな広告が載っていた。内容が暗くて悲壮すぎてなんだかシュールな気がするのもアレだけど、寄せられたコメントの熱心な賞賛口調がまた大仰で、世の中手におえないことばかりなので大作家も亀山先生もずいぶんといろんなことを背負い込まされているなあと苦笑。ドストエフスキーという名前をつっかえずに発音できる人すら周りにあまりいなくて一人で知恵熱を出していた高校生の頃の自分や、大学でロシア文学がおおっぴらに語られていること(研究してるんだから当たり前だけど)を目の当たりにして興奮していた頃の自分を憶えているだけに、こんなブームの中からでもドストエフスキーに取り憑かれてしまう中学生や高校生が少しでも多く出てくればいいと思うけど、どうもこのブームは大人ばかりが盛り上がっていて若い人にはあまり届いていないような気がする。中高生の知り合いがいるわけでもないし僕には確かめようもないことだけど。新訳についてはテンポがよくて読みやすいとかスピード感があるとか、当り障りのない感想が多くていまいちよく分からない。といっても新潮文庫版やロシア語オリジナルに慣れ親しんでしまったので、いまさら手にとって見る気にもならず、本屋で手にとって見ても立ち読みでは落ち着いて読めず、ひらがなが多くて居心地の悪さを感じたくらい。亀山訳ではプラトーノフの『土台穴』はすごかった。