朱門優『ある秋の卒業式と、あるいは空を見上げるアネモイと』

 実は前作は読み終えてからも何度か気になってぱらぱらめくったりしていたのは、作品の持つ不思議なやさしさの雰囲気がなんとなく気になっていたからで、今回続編が出たのはありがたいことだ。今回もやはり凝った設定と言葉の授受に終始する話だった。極論すれば飽きもせず「ありがとう」と「ごめんなさい」をどう伝えるかが主題。エロゲー畑らしいといえばらしいし、この主題自体はいくら使い古されても再生可能なものだ。神道の形式は日本の古い言葉と相性がいいから良く用いられるのだろうか。ちょっと大げさになるが、このシリーズの小説を読んでいると軽く背筋を伸ばさなくてはいけないようなきれいな美学みたいなのを感じさせられることがある。言葉の授受とは礼儀という形式を守る世界であり、自堕落でなれなれしい振る舞いはそれだけで罪だ。自分がだらしない人間である分その辺のすっきりしたきれいさが心地よく感じられて、なんとなく良い読書をして得をしたかのような気になれる。それを実生活でも生かせればいいのだけれど、まあその辺はだらしない人間なのでとりあえず実利は追求しないということで逃げを打つ。あといちこの体の線が何気に悩ましい。
 アネモイは別れはさりげなくある日突然くるみたいなことを言っていたけど、そうした意味ではこのシリーズは神さまの嬉しい贈り物のようなものだと思う。当たり前にもらえるものとしてねだってはいけない。これで最後かもしれない。最後だとしたらさびしいけど、だからこそいつも一期一会のきれいでさわやかな挨拶なのだろう。