KISSx500 KISS権、発動 (65)

 ふーーーーーーーーーーーーっ・・・まさか結婚後に最初の投稿がこの作品の感想になるとは思わなかったな・・・。というわけで、2009年から6年にわたってプレイしてきたKISSx500をようやく終わらせた。年に1回くらい思い出したように進めてきて、もう初めの頃に考えていたこととかは忘れてしまったが、作品としては特にこれまでプレイしたウィンターズ作品とあまり変わりはなかったと思う。絵がミヤスリサ氏だというのが違いかもしれないが、このメーカーがよく採用する古臭いタイプの絵師さんではなく、童顔おっぱいさんが持ち味の絵師さんなのでプラス要素にしかならない。キスといいつつおっぱい絵にも注力してくれたのはありがたい。
 絵といえば、本作のワイルドな立ち絵の使い方は印象的だった。バストアップとか細かい遠近感だとかはあまり気にせず、靴を履いた足のつま先までガツンと貼り出すのだが、これが獲物を頭から足まで視界に捕らえておこうとする狂人=主人公の人間離れした視覚を表すようでちょっと怖い(一応近めの絵もあるが、全身版があまりに異質なのでインパクトが弱い)。しかも、屋外だろうが屋内だろうが同じ絵、靴を履いた同じポーズなので、ヒロインは浮遊していて背景だけが差し替えられているような不穏さがあって、ウィンターズの絵の狂気じみた感じが健在で安心した。
 最近、思い切って新築戸建ての家を買って引っ越すことになったのだが、家探しで不動産屋さんに連れられていろいろと内見していたときに頭をよぎったのが、ウィンターズ作品に登場する主人公の部屋だった。なぜウィンターズ作品の部屋はあれほど寂しげで殺伐としているのか。21世紀の現在は、天井が高くてシステムキッチンとかあってリビングが広くて、廊下や階段や個室もなんだか無駄にシュッとしたデザインで統一されていて、窓が大きくて、照明も落ち着いていたりするのが一般的らしい。そういうデザインを採用したエロゲーも多いだろう。萌えゲー的な作品には多いイメージだ。ところがウィンターズが描く辺境の個室は、なんだかいつも時代から取り残されて軋みを立てているような悲しさがある。だが当の住人はその悲しさを意識しない。人間を逸脱しているからだ。獣が自分の巣を飾り立てたりしないのと同じだろう。狩猟系の主人公にとって、部屋の中と外の違いはあまりない。部屋の中が殺伐としているように、風光明媚なはずの「南沖ノ鳥島」の自然も人間に対してどこかよそよそしく、日本離れしている。例によって一瞬で日が暮れたり夜が明けたりする世界は、本作ではどこかアフリカか東南アジアにでも紛れ込んでしまったかのような不安を与える。そしてかまぼこ工場である。太平洋で獲れるスケソウダラだかイトヨリダイだかをすりつぶしてかまぼこを作っている工場があることだけが強調され、ヒロインの親とかはかまぼこ作りのパートに出ているという。システムキッチンとかそういう世界ではないのだ。主人公はこの世界を徘徊する狂人だ。もしかしたらこの世界は別に狂っていなくて、荒廃してもいないのかもしれない。かまぼこ工場も普通で、パートの人たちも5Sだのコンプライアンスだのを守りながら社会人をやっているのかもしれないが、主人公の目と耳は違う現実を見ている。主人公の名前はソウゼンだが、声優さんはなぜかソウゼンを発音せずに「    くん」と読んでいて、実際には深い意味はない技術的なミスなのかもしれないが、なんだか主人公が世界から零れてしまっているようで不思議である。
 コンプリートするのに時間がかかってしまった理由のひとつは、選択肢が多いことだった。そしてボリュームも多い。ヒロインが7人もいて、しかも個別ルート的な掘り下げのストーリーがほぼなく、ひたすら順列組み合わせ的に、数学的に規則正しく2Pや3Pや4Pのエッチシーンが配列されているが(作品名もシリーズを通して数学的に整然としており、見方を変えれば投げやりだ)、こっちは1回お世話になったら休憩しなくちゃいけないので、ストーリー的に色づけされていない要素の配列を覚えていられるはずもなく、主人公の狂ったキス三昧、エッチ三昧の怒涛の流れの中で迷子になるしかない。ストーリーはなく、ヒロインたちの内面世界を構造化するような傲慢なことはしない。あるのは主人公の運動と、それに対するヒロインたちのリアクションだ。ヒロインは読み解かれるべき本ではなく、瞬発力であり、運動する分子のようなシンプルで予測不可能な存在であり続ける。

見知らぬ女の子「あれれれれーっ??? なーんか全然見たことない人がいちゃったりしてるううーーーっ!!!」
「え???・・・・えっ?????」
・・・突然耳に飛び込んできた甲高い声に、俺は軽く驚いてしまった。
見知らぬ女の子「ねーねーねーねーねええーーーっ??? 君って一体だあれええーーーっ?????」
「・・・あ、っ・・・・俺は・・・ソウゼン、って言うんだけど・・・」
まるで子供のような無邪気さに圧倒されてしまい、俺は慌てて自分の名前を口にしていた。
見知らぬ女の子「ふぅうーーーん、そうなんだーーーっ。アタシはね、瞳菜(ひとみな)って言うの。よろしくねえぇーーーっ」
「・・・・あ・・・ああ、よろしく・・・・」
・・・麦藁帽子の似合う、天然っぽい女の子・・・瞳菜・・・こういうタイプの子と会うのって、生まれて初めてだよな・・・俺。
瞳菜「えへへへへーっ・・・それじゃまあ、はじめましてのあいさつってことで!!!」
「へ?・・・挨拶って・・・んううっ!?!??!?」
瞳菜「ちぅううううっ・・・・・ちぅぅうううーーーーっ・・・」
<中略>
瞳菜「あっはははははははははっ!!! ねえねえねえ、びっくりしちゃったーーーっ???」
「・・・・・そりゃあ、したよ・・・俺の心臓、『ぱぁん!!!』って弾けそうになったっていうか・・・」
・・・いきなり、キス・・・初対面の男に対して、こんなにも強烈な・・・こんな現実が、俺に舞い降りてくれるだなんて・・・
瞳菜「うっわああーーっ、なーんかすっごく紅い顔になってる!!! あっははははっ、これって結構嬉しいかもおぉおおーっ」
「・・・・俺、も・・・うれしいよ、すごく・・・って、何で俺にキス、なんか・・・?」
まるであくびのために広げた口に、程よい甘さのあんころ餅を詰め込まれたような幸運・・・よかった・・・やっぱりこの島に来たのは、大正解だった・・・
瞳菜「んーーーーっ、なんていうかぁあーーっ・・・ついつい、したくなっちゃったって感じでー・・・」
瞳菜「ところで、君ってどこから来た人なのーっ???」
<中略>
・・・この瞳菜って子の瞳、星みたいにきらめいちゃってるよ・・・キスを語って、こんなに感激されちまうなんて・・・なんか、胸が熱くなってきた・・・
瞳菜「あっ、そぉーだっ! ねえねえソウゼンくん、あまーい飴があるんだけど、一つあげようかっ?」
「あ、ありがと。ちょうど甘いものが欲しいなって思ってた処でさ・・・」
瞳菜「んじゃ、アタシが直接なめさせてあげちゃうからねっ」
「え・・・直接、って・・・」
瞳菜「それじゃ、いっくよおっ・・・あむっ」
・・・そういうと、彼女は飴玉を自分の口に『ぽいっ』と放り入れて・・・
瞳菜「・・・・ちゅぶっ」
瞳菜「れるっ、ちゅぅうううっ・・・・ぬちゃっ、くちゅっ・・・」
<中略>
瞳菜「んふぅううっ・・・せいえきって、なぁんか変なにおいかもっ。ふぅううっ・・・ね、これから何か予定とかあるのおっ?」
「・・・いや、全然・・・そんなもん、これっぽっちもないけど・・・」
瞳菜「そうなんだーっ? じゃ、ちょーっとあたしにつきあってくんない? この島のこと、案内してあげちゃうからっ!」
・・・願ってもない展開に、俺は胸のうちで小躍りしてしまった。
もっともっと、この瞳菜という子のことを知りたい。そして更に、親密な関係になりたい・・・性器と性器で語り合えるほどの関係にまで、突き進みたい・・・
瞳菜「ふんふんふふんふーん・・・らんらんららんらーんらーん・・・」
・・・今までの日々が不遇すぎた反動で、幸福の波が一気に押し寄せてきているのかもしれない・・・
瞳菜「んんんーーーーっ・・・今日もとーーってっも、いーーーい天気いぃいーーーーー・・・」

 ロリっ娘・瞳菜の登場シーンを長々と書き出してみた。文字だけ見ると痴女みたいだな……。飴玉と鼻歌の唐突さが素晴らしいということを説明したかったんだけど。前にKISS+100の感想でも書いたけど、ウィンターズのゲームのエロさは登場人物の内面というよりは主人公が発する一人称の磁場のようなものに由来する部分が多いので、痴女っていうのはなんか違うんだけどな。
 ヒロインの掘り下げはない作品だ。それでもキャラデザと連動した属性的な分担というものはあって、個人的には月夜が一番よかった。かまぼこ工場の島に根付きすぎている感じもよかったかもしれない。メインヒロインっぽい彗星も好みのデザインなのだけど、どんな女の子なのか最後までさっぱりわからなかった。
 最近のシリーズ作をやっていないので作り方が変わっていたとしてもわからないのだけど、こういう路線で行く限りはあまり新しい発見をこれ以上は期待できず、絵が好みで「お馴染みの狂気」に触れてみたくなったときくらいしか作品を買う気が起きなさそうなのは残念である。古さとか新しさとかとは無縁の、辺境の永遠の現在の中に自足しているのだから仕方ないのかもしれないが。

へっぽこエロゲーマー

 残響さんの「エロゲーマー諸子百家」シリーズに取り上げていただいて恐縮である。なんだか僕がこうありたいなと思うところをかっこよく拾いあげてもらったみたいで、かなり強そうな人になっていて照れる。僕に二律背反だったり謎だったりする部分があるとすれば、本当は専門知識(それも今は完全に錆び付いてしまったが)を惜しみなく注ぎ込んで自分語りをしたい浅はかな自己顕示欲の塊なのに、エロゲーの性質上身元がばれると困るので制限をかけつつ自分語りをしているという、現実による縛りが妙なねじれを生んでいるところもあるのかなと思う。あとは単純に頭の回転が遅い人間なのであまり発言できないし、しても自分の馬鹿さに悲しくなることが多い。ツイッターにしろ、書き込みは少ないけどTLはかなり見ています。頭の悪い人間にとっては、話す・書くよりも見る・読む方が楽だ。また、むっつりすけべなので、馬鹿っぽく見えることが嫌で口ごもっているうちに謎な人だとみられるようになって、外面と内面が乖離していってしまう過程はオタクになった経緯とも重なっている。職場でも多分何か匂いたつものがあるのだろうがなるべくはぐらかすように努めていたら、かえって人の好奇心を刺激してしまったという流れはこれまでに何度もあった(疑わしい独身男性ではなくなったので、今後は僕も「理解できる人間」と見られて、怪しまれることがなくなると期待している)。実際には僕はそんなに大層な人間でも文章書きでもなく、個々の感想文を見ていただければ浅かったり粗かったりするので、むしろ僕は残響さんが描いたくれたようなエロゲーマーを目指して精進しなければならないのかもしれない。といっても、求道者としてのエロゲーマーを張れるほどの強さは持ち合わせていないので、みっともない言い訳をしつつこれからも恥をさらしていければと思う。