谷川流『絶望系 閉じられた世界』

絶望系 閉じられた世界 (電撃文庫 1078)

絶望系 閉じられた世界 (電撃文庫 1078)

 またもや言葉そのものでは魅せることのできない作家。ハルヒシリーズは言葉が栄養失調気味で初めの一冊だけで読む気がなくなってしまったが、これはありがたいことに一冊で終わっているし面白いらしいしということで読んでみた。一冊だからといって特に文体の密度が高くて研ぎ澄まされているというなことはなく、やはり貧しいが、話が内容の暗さと同時に寓話的な軽さを持って進んでいくので一気に読めた。大審問官伝説もどきというか。欲望がきちんと一定の方向に向けられ、途切れることなく供給され続けるシステムというのは、完成されたきれいな世界であって、それが暗く残酷で無責任であっても(というか、それゆえにさらにかな)安らぎを与えてくれる。機械になること=システムの一部になること=死ぬことは、それが欲望の循環するきれいな世界なら、そんなに嫌なことではないでしょう。本作がやっていることは、間違って配置されたキャラクター達とその欲望をきちんと並べ直すことであり、萌えを壊すことのように見えて実は萌えの正しい回路を設定することかと思う。主人公のカップルだけではなく、天使も死神も親友も姉も悪魔も、欲望することと欲望されることのバランスをきちんと取る(一男性読者としては男キャラには特に惹かれないが)。欲望が成就されないようできているのでMな読者としてはなかなか心地よいところもある。死神幼女のいろんな穴とかね、もうエロいけど怖くていいですね。まとめると、これも恋愛についての話なのかなと。