鬱のこと

 R.U.R.U.R.の感想で不用意に「タナトス」という言葉を使って、まあ正直に書いたつもりだし修正しようとは思わないけど、なんだかまずいような気がしてきたのは、薄々感じていたことがようやく人に言われて言語化されてきたおかげらしい。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

 ドストエフスキーに毒されたせいか、物を食べることに対しては無関心どころか反感を持ったりしていたので、積極的な意味を見出そうとすることはあまりなかった。食べて味覚を喜ばせたりするよりは、むしろ食事を精神的な行為としてみるほうが親近感がもてたりするので、料理の下手なエロゲーヒロインや楽しそうに物を食べるエロゲーヒロインをめでる気持ちはあったし、ヒロインの手料理という贈与の行為も好きだし(参考:月森さんの考察)、自分で何か作ってみてもおいしくできることはまったくといっていいほどない。この本では、物を食べることは体のエントロピーを低下させる行為として捉えられている。生物というのはどうしようもないもので、何か方向付けを与えて絶えずどこかに向けて組織して稼動させていないと、だめになってしまう。止まって、満足して、次に外からの働きかけでもない限り、動くことはなくなる。一度決定的に切れてしまえば、もう大抵はだめ。死。食べることによって体に作動の動機を与える。
 欲望・激情はエロスの分野、つまり生の分野。ミズバショウやシロツメグサがイチヒコへ向ける思いが、方向付けられた強い情念である限りにおいて、たとえそれがイチヒコ以外の全てを壊して、二人だけの世界に停止することを目的とするものであっても、それはタナトスではなくエロスの発現といったほうがいいのだろう。2ちゃんねるの人によれば、エントロピーの問題としては、エロスとタナトスは似たようなものらしい:

http://yasai.2ch.net/psycho/kako/981/981830412.html
 一つの閉鎖系において、常にエントロピーは増大しつづける。系をシステムとして動作させようと思えば必然的にエントロピーの増大を伴う。エントロピーの増大を0に押さえればシステムの動作そのものが止まってしまう。で、心的過程が人間の身体の発達、及び言語の習得に伴ってシステム化されるときには、必然的に、「できるだけ長く動作させようとする」という性質が要求される。そのような性質が無いシステムは早晩崩壊してしまい結局残らない…、進化論的にいってこのことは十分な蓋然性があるであろう。そのときにシステムとしての心的過程を動作させるための力が「エロス」であり、エントロピーの増大が大きすぎたときに早期崩壊を食い止めるためのブレーキが「タナトス」になる。それぞれは、エントロピーの比喩のなかでは相反するものに見えるが、対立し合うものではなく、できるだけ長くシステムを維持するという同じ目的に適った動作の二つの側面に過ぎない。

 エロスが目指すところもタナトスが目指すところも、最終的には合一の果ての停止であり、彼らはそこまでの駆り立てる力。
 鬱のときは食欲はなくなる。部屋の掃除とかもできなくなる。何かをやる気がなくなり、ただ静かに時間が過ぎるのを見送るだけ。
 いわゆる「鬱ゲー」、ヒロインが死んだり狂気に囚われたり苦しんで暗い結末を迎えたりするゲーム。個人的にこういうのをやっても必ずしも鬱になったりしないのは、主人公やヒロインが苦労しても、それでも生きる意志まで(自殺をする意志まで含めて)は失ってはおらず、むしろそういった不幸によってもっと絶望的なはずの無気力が覆い隠されているから。鬱ゲーと呼ばれなくてもやった後に鬱になるゲームだと、今まで一番キたのは家族計画。後はらくえん。浸る時間さえあったらおそらく鬱になっていたものは最近ならR.U.R.U.R.、最終試験くじら、キラ☆キラあたりか。アニメなら最近見たのではトップをねらえ2、るろうに剣心あたり。恐ろしいのは山あり谷ありで、最後には平静な境地に辿り着いて僕を置いてきぼりにする話?フィクションの世界で揺さぶられて散らばるだけ散らばったあとに停止して、エントロピーが増大。
 週明けにかかる鬱は、山積した宿題を一つの方向に動機付けて自分を動かす気になれず(結果の褒美も期待できず)、山積したまま放り出したくなるから。エントロピーのことは生物に限らず、会社という組織についても、資本主義のシステムについてもいえそう。まあこういうのはその手の本にいくらでも書いてあるんだろうけど。ながらで書いたんで中途半端な記事になってしまった。思いついたらまた何か追記しよ。
自己参照:

 ちなみに、エントロピーが増大しきった空気を表している映画がソクーロフの「静かなる一頁」だったように思う。『罪と罰』のいくつかのシーンを映像化したもので、ポルフィーリイがやばい感じだった。そんなに面白くはないけど、変わった映画。


 近況。電車の中でひたすらTrue My HeartとKiss My Lipsを聴いて脳みそを蕩かし中。後者は歌のタイトル確認しなけりゃよかった。空耳のままでよかった。
 ロシア語で「朝からずっしりミルクポット」の素晴らしさを力説(http://sinonome.livejournal.com/14271.html)。ロシアのエロい人が自動翻訳でエロゲーをやっているとのこと(http://lapshinji.livejournal.com/76793.html)。ゆくゆくはシナリオゲーもやってみて欲しい。
 樹海人魚2巻、楽しみ。