元長柾木『星海大戦』

星海大戦 (星海社FICTIONS)

星海大戦 (星海社FICTIONS)

 土星側の最高組織が「恩寵会議(ソボールノスチ)」というらしい。ソボールノスチというのは直訳すると集合体とかいうような意味で、19世紀の民族主義思想運動を主導したスラヴ派のロシア正教解釈の概念で、正教の神への信仰があれば自他の個を乗り越えて人は一体になれるみたいなどうとでも取れるスローガン。もうとっくに賞味期限の切れたイデオロギー用語と思っていたけど、何かの間違いで文学的想像力をかきたてることもあるらしい。
 他にもロシア系の名前の軍人がたくさん登場したり、いわゆる民主主義や人道主義が懐疑的に描かれたりと、なんとなくつられそうなネタが多い。戦記物はあまり読んだことがないので的外れかもしれないが、個性あるキャラたちが活躍するさまが『戦争と平和』みたいな感じだと思った。とはいえこれだけではいまいち印象の薄い娯楽小説の域を出ないと思うので、あとがきで語られているような意気込みを感じさせる、この設定でなければだめだったんだという必然性と冒険を続巻では期待したい。
 あと、出版社のほうでは製本に自信を持っているようだけど、確かにカラーイラストはきれいだった。美少女分が薄いのが残念だが、こちらもだめもとで今後に期待。