天使のいない12月 (85)

天使のいない12月 CD-ROM版
 リアルできつい内容を、高い演出力と優しい絵と音楽で芸術に昇華させてしまっている、凶悪な作品。これだけ没入したんだから、ヒロインとは一緒にいなくちゃいけない。そうじゃないとダメなのに。それなのに、なんだこの優しく包み込んでフェードアウトしていくような雰囲気は! 
 レディコミとか青年マンガとかの絵でやってくれたら適度に対象化できたんだろうけど、この絵や声優さんたちのおかげでかなり呑み込まれた。テキストに無駄がなく、作品の完成度はずば抜けている(もちろん、違和感を感じたところもないわけじゃないが)。
 サブキャラたちにいたるまで、みんなリアリティが濃い。あまり笑えないことだけど、物語を進めながら、これほど主人公の反応が僕にとって自然に近かったのは他にない。恵美梨とか功とか雪緒とか透子とかと会話しながら、もう馬鹿みたいにモニターに向かって苦笑したり、ブツブツ何か言ったり溜息ついたりしてしまった。恵美梨にバカとか死ねとか言われるの、本当にやばい。おやっさんは本当に厳しいし、透子は本当にバカだし、自分は本当に無力だし。
 こういう物語的なリアリティが強い上に、さらにメタゲーとしても充実しているところがすごい。泣きゲーの場合のようにすっかり打ちのめされてしまうことはないけれど、こういう作品は喜んで高評価したい。エロゲーに何か意味を求めてしまうような人間には素晴らしい作品。