僕と、僕らの夏 (60)


結局コンプリートしました。
(一言感想)
 爽やかな田舎ゲーのパッケージとは裏腹に、悪い意味で未熟な人たちの退廃的な話だった。ダムに沈む村と、何かしらの未練を持った失敗者たち・・・。チェーホフ桜の園のような設定ながら、こっちはなんと後味の悪いことか。育ちの悪さを感じる。
 貴理シナリオを終えた時点で、宣言したように、止めてしまってもよかったかもしれない。続けたけど評価は良くも悪くもならなかった。以下、いつもにも増して主観的な感想です。


(ネタバレ注意)


1. 貴理シナリオ
 メインヒロインの貴理のシナリオを一つ終えただけだけど、なんだかもう他のシナリオをやる気がしないのでとりあえず一区切り。シナリオによっていろんなキャラの視点から話を見られるのがよいとのことだけど、それならもう少しみんなを魅力的に書いてほしかった。有夏も冬子も貴理のあとでは近づきたくない。lightのゲームはこれが初めてで、プログラムを公開してユーザーによる二次創作を奨励していることに痛く共感していたものだから、この作り直してくださいといわんばかりの野暮ったいテキストとシナリオはいったい何なんだと思った。主人公がとてもダメで、劣情に流され、友人にどつかれ、祖父に逢引をお膳立てしてもらっても、幼い言動で貴理にストレスを与え続ける。実は貴理も、散文的なダムの話をしていたら情緒不安定になって泣き出したり、場末の酒場で酔っ払って愚痴を吐き散らしたりと、かなり哀れな姿を曝しているけど、平然とその場を演出している親達や冬子ほど野暮ったくはないし、主人公と違って何度も無神経なことをしたりはしないし、それに何よりも、ちょっと暗いけど、性格も容姿も可愛いので罪はない。田舎者かもしれないけど、それも含めてとてもいい娘だと思った。H前のイチャイチャもさくらむすび並みに長くて楽しめた。
 視点が主人公とヒロインを交互し、どちらをも選択肢で動かせるのは、物語を操っている感じがしてちょっと面白い。でもその割には不本意な選択肢が多かったのには参った。ついでに、選択肢でセーブできないのにも困った。
 音関係では、完全版が出ている作品なのでこちらは声無しかと思っていたところ、しっかりフルボイスだったので得した感じがした。ただし、声優はよくてもセリフは凡庸なものばかりだし、声を読ませるとしばしばBGMの再生が不安定になるのには閉口。BGMはやや奇妙なセンスだった。序章はジブリアニメの音楽かバレエ用の組曲のような豪華な曲でわくわくし、続いて噂のケルト調の日常シーンBGMも楽しんだけど、しばらくしたら、廃村寸前の寂しい村で賑やかなケルト音楽が流れ続けていることにやや違和感を感じ、それから、陵辱シーンでの勇壮なクラシック調の曲で戸惑い、さらに、和姦シーンでは、19世紀の交響曲っぽい壮大なのが流れて、さすがにちょっと笑ってしまった。貴理が可愛いから許せるけど。ED主題歌は爽やかでよかったと思う。
 いつか他のシナリオをやることもあるだろうか?他の人たちは口々に、裏ルートに本領があるという。でも貴理は、絶対他の女の子を見るなと何度も釘を刺した。ダメ主人公の恭生に代わってせめてもの罪滅ぼしだ、貴理に操を立てておこう。少なくとも当分の間は。


2. 有夏シナリオ
 有夏シナリオ終了。・・・・・・理解不能・・・理解不能・・・理解不能・・・。主人公と有夏が互いを好き合っているようにはとてもじゃないが見えなかった。恭生には相変わらず何の魅力もないし。全然長続きしなさそうなカップル。エッチしながら好きだと言い合っていたところだけ少し説得力があった気がする(笑)。僕が納得できなくても、登場人物たちは納得できていたのだろうか。僕が貴理に感情移入しすぎているのだろうか。
 同じく気持ちのすれ違いを描いたチェーホフの『かもめ』や『イワーノフ』では、失敗したままいつの間にか老け込んでしまった人間達のやりきれない悲しみと一縷の希望が描かれている。『僕と、僕らの夏』でプレイヤーに必要とされるのは、チェーホフの作品を読むときのような距離感なのかもしれない、と思い直してあっさりと貴理に立てた操を捨てて再開したわけだけど・・・。チェーホフと今作が違っている点はいくつもあって、こっちはマルチシナリオであること、一応商業エロゲーなので各シナリオをハッピーエンドじみたもので終わらせなければならないこと。そして、他の多くのエロゲーと違って、各シナリオがかなり重なり合っており、しかも個々のシナリオの中で非メインヒロインはかなり嫌な角度から描かれているので、自分のルートになったときにはあまり説得力がない・・・。まあ、つべこべ言わずに次のシナリオを進めてみるか・・・。


3. 冬子シナリオ(?)
冬子シナリオ(?)終了。・・・・・・。おかしいな。冬子の言葉は相変わらず思いっきり白々しいまま。主人公も卑屈なクズのまま。仕方がないから有夏を応援しながら読み進める。他のキャラに魅力がなさ過ぎる。貴理もただ流されているだけだし。でも有夏もなんだか中途半端ままだし、貴理も充分に応えてあげられているようには見えない。あまり意味のないシナリオだった。次からようやく「裏ルート」だ。


4. 裏ルート1
裏ルート1終了。・・・・・・。自分がどう見られているか分かっているようで一番分かっていないのが冬子。バカな女のバカで感傷的なモノローグに延々とつき合わされたけど、とりあえず最後に少し救いがあってよかった。


5. 裏ルート2
裏ルート2終了。・・・・・・・。裏ルート1よりさらにひどいような気が。「瀬里奈」の多香子さんの声が耳にこびりついているせいか、冬子が全然受け付けられない。


 裏ルートは結局やってもあまり実りはなかった。有夏の行動の謎もよく分からないままだった。単に手に入れて満足したとか、手に入れて不安になったとか、そういう問題でもなかったような気がするんだけど。というか、そういう問題なのかもしれないけど、そこら辺のもっと繊細な描写が欲しかった。


6. OMAKEシナリオ
OMAKEシナリオ終了。皮肉なことに、サブキャラしか出てこないこのシナリオが一番よかった。


7. まとめ
 僕にとっては、主人公と冬子を受け入れられなかったのが致命的だった。貴理の一途な思いをのぞけば、有夏の同性愛が一番まともだった。冬子は言うこと成すことがすべて陳腐で、内言も「頭の悪い女」のステレオタイプな感傷にたっぷりと染まっていて寒々とさせられた。トレンディドラマの見すぎか何か知らないが、自分のセリフがいかにみっともないのか気づいていないのだろうか。暗い過去を持つ育ちの悪い人間なのだから仕方ないのかもしれないが、こういう人間とはなるべくなら関わりたくない、どこかで一人でセンチメンタルジャーニーしてくれと思った次第。
 主人公のほうは、貴理以外のルートで明らかになっているように、誰かと恋愛できるほど精神的に大人になっていない。そのせいで周りに災難を撒き散らしている。
 この二人は、たぶん現実に誰もが多少は持っている面を強調しているだけで、立派な反面教師だと思う。エロゲーのキャラとしては、こんなのにでしゃばられても困るのだけど。
 「桜の園」の失敗者たちはすでに老け込んでしまって感傷的になっているので、桜の園を詩的に昇華させる。「僕と、僕らの夏」の失敗者たちは、現在進行形の失敗者たちなので、散文的な悪所であるダムの周りで膿を撒き散らす。「かもめ」が100年前にモスクワ芸術座で初演されたときには、登場人物たちが片思いですれ違ってばかりのまま終わってしまったからか、フラストレーションばかりがたまるということで賛否両論が巻き起こった。「僕と、僕らの夏」では、すれ違っていたり勘違いしていたりするのになぜかハッピーエンドっぽくなっているので、性質が悪い気がする。さらに言えば、チェーホフ劇では大切なことはふとした身振りや思いつきなどのさりげない瞬間に現れるが、今作では、大切なことはモノローグやダイアローグでしっかりと「明記」されてしまっていてミもフタもない。まあこちらはエロゲーだし、チェーホフなどはお呼びでないかもしれないが。ともあれ、恋愛ストーリーよりも風刺か何かにしたほうがよかったのでは。
 それから、かわいそうな貴理をいじめまわして、ライター氏には何かに恨みでもあったんだろうか・・・。