MOON. renewal (70)

 主人公が女の子だったからこそのこの暗さなのだろうか。後続作品のエロゲーの妖精のような語らないヒロインたちと比べると、この話のヒロイン達の傷は地下室の手記のように生々しい。悪夢のように暗くて恥ずかしい思い出は、単なる思い出として風化させ忘れてしまいたいのに、それではその思い出の中の自分や友達に対する裏切りになる、なんてことがあるのだろうか。そんなことなら無責任な子供のままでいたい、いつまでも母親の温もりに包まれていたい、なんてやっているうちにいつの間にか取りかえしのつかないことになったり。でもあの学芸会の木はどうしたらしたらいいのでしょう。どんな結論だったっけ?決戦、母親との和解から自分も母親となる流れの中に、何か飛躍はなかったっけ?終盤の設定解明がなんだかソレっぽ過ぎてあんまりついていけないうちに話が終わってしまったので(これはちょっとショボかったかも)、肝心なところを忘れてしまったような気がする。地下の花畑のシーンはもっとみっちり書いても良かったのではないか。どこか奥深いところにひっそりと咲いていた花畑を無我夢中で引きちぎり荒らしまわる姿は、意味が分からないけど悲しい。
 このイメージはまだ良くても、続く月のイメージと月が作品タイトルとなっていることには、ちょっと若さゆえに悪乗りというか、言葉とそのイメージを御し切れていない印象を受ける。まあそれは枝葉かも。作品世界に強烈に吸い込まれてしまうようなことはなかったけど、これは単に僕が擦れてしまったからか。間延びしてしまっているクラナドなんかよりはいい作品のはずだが。今の水準からすると大作ではないけど、印象に残った(音楽もいいし)。
 何だかストレートすぎる感想なので最後に一言。エロゲーマーの求めているのがヒロインとあたう限り一体になることだとしたら、この作品では主人公が女の子なので、マゾヒスティックで隠微な快楽も悲しいトラウマもきれいな心も、全てごたまぜにして剥き出しで共有できるのがいい。と言ったら単純化しすぎか。メインテーマ(?)である「依存」がどんな風に解決されたのか(そもそも解決されたのか、解決とかそういう話なのか)よく分からなかったので中途半端な感想になってしまった。みさおの思い出や奇跡のような、なにか強烈な軸があればもっとヤバイ作品になってたと思う。