ONE2 (65)

 自分の脳内をいくつかのレベルに区切って、並列的に増殖していく唯一の恋愛を体験していくという皮肉な構造に、ある時点からはついていけなくなり、結局は自分の手の届く範囲にある物語を、ある種の妥協を経て皮肉なしでべたに読むことに落ち着く、というのがすれたエロゲーマーの悲しい習性だとすると、ONEの美しく閉じた世界を無造作な手つきでアレンジしてしまうこの作品に、脱力し、頭が麻痺し、結局は結構楽しんでしまった。やっちゃったものは仕方ない。ここにいるヒロインたちもやはりそれぞれの物語を抱えた恋愛ゲームのヒロインたちであり、流れる音楽がONEとだぶる奇妙なものだとしても、それはやはり固有の物語をなしているもの。
 話としては乃逢シナリオが面白かった。「属性」といういかにも当てにならないいい加減なカテゴリーからすると、彼女はエロゲーではおまけ的な位置のヒロインになるはずだったけど、結構意表を突かれてしまった。本作のテキストには取り立てて強いリズムとか叙情性とかの魅力はないけど、それでもONEでも印象的だった空と海、そして永遠の世界へ消えることが、走るということとに陰影をつけていて、走っているのか止まっているのか、どこへ向かってどんな風に誰と走っているのかというなことの振幅に、最後のほうは少し眩暈みたいなものを感じた気がする。水平生活万歳な僕自身はマラソンとかは好きでもなんでもないけど、走ることが大好きな女の子と、煩わしいことをさっぱり忘れ頭を空っぽにして、いつまでも、どこまでも走っていけたらと思ってしまった。鍵ゲーが面白いのは、恋愛の様相を単に心情や事件の描写によって「読解」できるような巧いシナリオに書いているからではなくて、直接的な恋愛というよりは、恋愛も含めた何か濃密なことが起こるような普通でない流動する空間や感覚を描いているからだと思う。そういう境地を自分一人ではなく可愛い女の子と共有できることに喜びを見出す。そして多形倒錯的な欲望が性器的な欲望に集中されるように、鍵ゲーの魅力はヒロインへの萌えという形に収束されてしまう。
 本作はONEとはライターさんが違うけど、前作のテーマを借用というか継続しているので、その残響はある。ずいぶん控えめだし、追想とかちょっと困りますが。乃逢以外のヒロインは割と普通な感じだった。心音や綾芽の変身振りとかよかったけど。このライターさんは話の展開を結構ひねるので最後までだれなかった。