Carnival (80)


(ネタバレ注意)
 ひとつ前のエントリを書いていたときの印象とはだいぶ違う話になっちゃったよ。まさにあの後で戻って再開した選択肢から。そのためかえってあの泉エンドが引き立つ。泉は失敗したクリスチャン。ああ、いいツボを突いてくるよ、この展開は。式子だけではなく、イッポリートや病院坂の盟友ですね。なぜ、結構丁寧に聖書やクリスマス礼拝のエピソードが描かれていたのか。ここにライター氏の抱えるテーマを見てみたい。一般向けに本から仕入れた知識みたいな説明の仕方がされていた部分もあったけど、僕はライター氏が実際にも結構キリスト教の近くで育ち、その人格形成の上で無視できない影響を受けたのではないかと思った。エロゲーのモチーフとしては珍しいということもあるのかもしれないが、聖書や教会との泉の距離の取り方がリアルに感じるのだ。キリスト教に納得できず、そこから離れたからこそ、厳しく真理を求め、知識や論理に溺れる人間になっていく。そこからも解放された泉との逃避行のなんと悲しく楽しいことか。
 というわけで本題。本作は近代ヨーロッパ文学、特にわれらがドストエフスキーとの親和性が高いように思う。弛緩したりまったりすることを知らず、神や規範に追い立てられるカッチリした窮屈な個人の文学。でもド氏とは違い瀬戸口氏他は信仰は持てなかった(日本人だしね)。ソーニャこと理紗は聖書を読んでもその厳しさについていけなかった。聖なる娼婦ではなかった。ただ悲しんで従うだけ。ああでもそれが聖なる娼婦っていうことなのか。最終シナリオは理紗の語りなのに、その語りは核となる部分をぼかす。理紗の抱える罪の強迫観念が曖昧なのだ。父の娼婦となったこと、武の娼婦となったこと。これが理紗の心をどれほど暗いものにしたのかについては、「アイドル」的なところのある理紗の口からはうわ言のようなぼんやりしたものしか分からない(ついでに言うと、ソーニャ・マルメラードワについてもある意味同様かも)。これ以上重くて凄惨なシーンを増やしてプレイヤーを疲れさせることを避けるための、賢い作者の配慮という部分もあるかもしれない。あるいは、陵辱に慣れたエロゲーマーの馬鹿頭には届きにくくなってしまったのかもしれない。理紗がなんであんなに苦しまなければならないのか、よく分からない!そこにこの作品一番の悲しい魅力があるような気がする。理紗がいい子の仮面をつけなくてはならなかったこと、仮面が皮膚に張り付いて笑おうにもきれいな笑顔しか作れなくなってしまったこと、そんなことはぜんぜん普通じゃないか、程度の差はあれみんなそういう歪みは抱えているものだろう(なんか失礼なこと言ってますね)。0か1かを要求してくる現実の世界で、その選択肢の設定の仕方がたまたま意地悪だったから、こんな風に酷いほう酷いほうへと転がり落ちていって、最後に逃避することに決めたんじゃないか。これはハッピーエンドだろう。泉も理紗も。そう考えて満足してしまっていいものか。それとも、理紗がなんだか柔らかくてつかみ所のない声や性格をしているからこそ、そんな風にして小さい頃からおとなしく汚されることに慣れながら育ってきたからこそ、プレイヤーにとってはいつまでも暗闇、というか曖昧な薄闇のような存在になっているのだろうか。
 あとは細かい印象とか。2章の武は普通の乱暴だけどいい奴キャラだったなー。なんてこと言うと陵辱や暴力への感覚が麻痺しているか。こんな普通の奴に理紗を貪られていたところに本作の暗さが見える。それに理紗の父(書きたくないが)。書かれないからこそ嫌らしい気持ち悪さ。
 音楽は「夜の情景」と「マイホーム」。どちらも曲名とはあまり関係ないシーンで使われるいい曲。特に前者は学が誰かと会話しているときに流れると一気に「終わり」っぽい雰囲気になってくる卑怯な曲。綺麗過ぎて安易だろうか。ONEの追想みたいにとっておきのところだけで使う節度が必要だったろうか。こういう曲は麻薬みたいなものでしょう。何で吸い出せないのでしょうかorz。「マイホーム」のほうは音楽だけ聴くと明るくて軽い感じだけど、作中のやりきれない話の背景で流れると不思議なことに。家族計画でもそんなのあったなあ。
 絵は線や色に勢いがあって好きだけど、鍵ゲーや天いなに感じたようなリアリティは弱い。目の描き込みが他の部分と同じレベルだったり、表情バリエーションの差異がはっきりしすぎていたりしたからか。非エロイベント絵も一義的過ぎ。観賞用というよりは説明イラストに近い。髪の毛が様式化されている。でも好きな絵柄なんで、このスタイルでも危険な現実感を表現できることをそのうち証明してほしいものです。泉のH絵でよいのがひとつ。
 音楽と絵がないのはとても寂しいが、小説版は今度探してみよう。
 これはプレイヤーを巻き込む陵辱物のエロゲーだけど、サブキャラたちの陵辱は割とあっさりしている。結局、重い話が読みたいのか読みたくないのかわからなくなる。この宙吊りな感じが暴力的。なにやってもだめなものはだめ、こういう状態になってしまったらとりあえず誰かと逃げるしかない、その相手を見つけるまでにこんないつらいことがあるのかやはりという作品だった。感想がまとまらない。