佐藤友哉『フリッカー式』

フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)

フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)

 勢いはあるけど文章の密度が足りない。言葉の精度が低い。ポップカルチャーや純文学の固有名の引き方が垢抜けない。二十歳のときの作品なので今はどうなっているか知らないけど、言葉の匠への道はまだちょっと遠そうだ。なんて偉そうな感想はここまで。
 エロゲー的な制約がないので、恋に落ちるタイミングが自由であることが小説の強み。恋に落ちなくてもいいわけだから、その文予定調和っぽくないし。ヒロインを乱暴に扱うのも自由。推理物っぽいトリックを除けば、「壊れた」という言葉の勢いだけで書かれたようなこの小説で、なるほどと思わされたのは、処女性を失った女の子に乱暴するのは、新品だった時はとても大切にする自転車でも、一度傷がつくと後はどうでもよくなってしまう感覚と似ているという喩え。陵辱系の心理ってこういうものなのか、人を物みたいに見るってこういうことなのか、と。割とどうでもいい細部だけど。後はひたすら凄惨な展開で心理的な負荷をかける話かなあ。
 また偉そうな感想になってしまう危険があるが(最果てのイマワールドに浸っていたいた後では仕方ない)、続編の『エナメルを塗った魂の比重』も一緒に買ってしまったので、そのうち読む。