田中ロミオ『人類は衰退しました』

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

 エロゲーの制約のない田中ロミオさんは何を書くのだろうか。恋愛・一対一の二人の世界から一歩引いて、もう少し抽象的な関係をテーマにした、一対多の話のようだ。寓話的な設定だし、名前のない(出ない)女の子のですます調の語りだし、人格的なものを与えられた登場人物は彼女一人だし、ほのぼのしてるし、シリーズ物の第一巻だしと言うことで、この先どう転ぶかは分からないけど、とりあえずエモーショナルなものはかなり抑制された作品になっている。制約がなく自由だからって、叫べばいいというものでもないということで。またもや、時代に合わせてうまく選ばれたかのようなテーマ選択や設定の被いに隠されて(?)、作者の「心の叫び」は聞こえず、読者もそんな下世話な関心はとりあえず持たないほうがいいでしょうという感じかな。
 寓話的な設定なので幾通りにも解釈はできそうなのだが、とりあえず思いついたままに書いてみると、現代版『ソラリス』かなと。そしてソラリスの海は2ちゃんねらーでありvipperでありニコ厨でありエロゲーマーでありブロガーでありマスコミとその消費者であり、つまりそういう「多」のカテゴリーであり、他方、それと対話し観察し瞑想する主人公は神であり創造主田中ロミオであり、もっと広げれば感想文や考察その他の「多」への参加を「創造」するわれわれ一人一人。妖精たちの話す毒気の抜かれたおかしな言語や、パステルカラーの穏やかな風景や、主人公の女の子の身に覚えのありすぎるものぐさな性格は、そんな分かりやすい設定を屈折させて僕らの心に乱反射させるためのプリズム。これは静かに疲れた孤独で暗い世界なのか、それともお菓子を作れるちょっと賢い女の子(引きこもりの気あり)にまったりと萌えていいのか・・・。
 間合いを測りながら一文一文を器用に繰り出してくるいつもの文体で、今回はですます調のほのぼのした話なのでスピード感はなかった。淡白な感想になっちゃうが、これはこれで愛すべき小世界。