まり∽くり (80)

http://www1.ocn.ne.jp/~hain/
 エロゲーというジャンルのエンディングとしてのエロゲーエロゲーを楽しもうとして起動させたらもう終わっていたという・・・。
 今回は作品が完成する前に製作者のHAINさんから直にご案内を頂いていたというイレギュラーな状況があるので、微妙に感想が書きにくくなるかもしれないけど、いつものように気の赴くままに書いてみよう。


 HAINさま、このようないささか中途半端な形での感想をお許しください。エロゲーにおいてプレイヤーと主人公があるように、プレイヤーにおいてプレイヤー人格とエロゲーマー人格と日常生活人格とその他の社会生活人格などがあるように、いわゆる二次元と三次元の時空があるように、―――何だか胡散臭い言い訳じみてしまいますが―――、事象はいくつかの位相の重ね合わせから成り立ち、僕たちは自分(あるいは誰か)に都合のいいようにそのゆらぎ、その隙間を移動しながらどうにかこうにかやっていっている。エロゲーが特にプライベートなどこかを対象としたものであるだけに、製作者の影がヒロインの影よりも強くなることにちょっと身構えざるを得ない。強靭な(?)頭を持った人なら割り切って作者に萌えたりヒロインに萌えたりできるのかもしれないけど、というか僕もけっこうできているような気がするけど、そこに一抹の後ろめたさを覚えざるを得ない。あと、こっちのほうが主ですが、相手によって感想を書き分けられるほど器用ではなく、まず書けることを一度で書き出したい。というわけで、作品とそのヒロインに集中するために、こんな形で感想を書きます。ご勘弁を。ご案内頂いたことについては、繰り返しになりますが、身に余る光栄として、また嬉しいサプライズとして感謝しております。人付き合いが苦手なのでお手紙一つ書くのにもなにやら力んでしまいますが、今後ともよろしくお願いいたします。では感想をば。


 分量が短いせいもあってか、スマートな模範解答的なシナリオだと思った。儀式としてのエロゲー、所有や処女性の問題を、ぎりぎりまで誠実な形で解決しようとしている。『屠殺の園』はプレイヤーや主人公の位置がわかりにくい(触手ゲーとかに近いんだろうか、よく知らないが)異端的なものだったけど、本作では『水仙花』の流れに回帰してハッピーエンドを目指しているような感じか。いくらエロゲーが日本的な感性の産物だといっても、なんだかんだいってわれわれは西洋的な思考方法にかなり侵されてしまっているわけで、要するにマクシマリズム。新しい言葉を探求するあまり、文法を放棄し、文字を放棄し、しまいには一振りの身振りを作品であると主張していた100年前の前衛詩人や、黒い四角に神秘的な意味を見出していた前衛画家のような抽象化への引力。解決できないはずの問題なのに、形あるものとして作るために、ゆるやかな間(ま)や空気というよりは、分節化し記述し建設してしまうという業の深さ(そういえば、この点で文体がヒロインのセリフも含め男性的な感じがする)。悲劇と笑いは相容れず、悲劇的なテーマを抱えながらもハッピーエンドを目指す本作は、安らぎの境地へ。
 テクスト以外の要素との組み合わせ。『水仙花』のヒロインを演じたもりやまあおいさんのお姉さんボイス、いい。はじめは暗い声だなあ(それにちょっとイントネーションの抑え方がわざとらしかった)と思いながら聞いていたけど、慣れとは恐ろしいもので、その抑え方にも自分でなにやら理由を思いついてしまう。いきなり卑語のエンジンがかかるのもおかしいし、語彙に相変わらず癖がありすぎる。正直なところ、エロテキストにもうひとがんばりほしい(あとから普通に楽しめたので、特に導入部かな)。それがいつの間にか、お姉さんの慈悲深い卑語ボイスに悲しくも癒される自分を発見。エロゲー界広しと言えども、ヒロインとプレイヤーとの間にあるモニターの壁を知りながらも、こちらを信じてどこまでも尽くそうとしてくれるお姉さんはあまりいないから。絵にも何だか慣れてしまった。顔のデザインとか、HAINさんの癖もあるけど、明らかに扇情的でない。幾千ものゲームを乗り越えて、達観してしまっている。これは無理かなあと思っていたんだけど、『水仙花』でもそうだったように、何しろ彩色がいいからね、このフェチ野郎!タイツとか髪とかタートルネックのセーターとかから外堀を埋めるように気を練っていき、気がつくとお姉さんヒロインの淡白な顔にも、なにやら観音のような慈悲の安らぎが・・・。東洋的なエロスといってしまっていいのだろうか、これは意外だった(半分冗談、半分本気)。ロリっ娘風にデフォルメされたのではない、けっこうリアルな観音様とセックスするゲームなんてあっただろうか。思えばエロゲーの視覚的スタイルはかなり偏っているので、原則的にはもっといろんな画法が試されてもいいはず。難しいんだろうけどなあ。音楽は丁度よい感じだった。最果てのイマ以来かなりの頻度で聞いているサティのジムノペディが聴いても分からなかった。僕が音楽音痴だというのもあるけど、それよりも作品にうまく溶け込んでいるから。
 寝取られ、寝取り、でもヒロインは初めて。またもや交わす、最後に交わす、たった一度の約束。おかしいけど、それがおかしくないのがこの世界。