千夜一夜なぐさめて

うえお久光悪魔のミカタ6・7・8・9』

 自分がシェヘラザードだこの人。シリーズの構成として、このタイミングでこの話(ジョウとヒナの子供時代)を入れてきたのはとてもうまい。どちらもメインストーリーのほうでは設定が先走っていて、キャラとしてはちょっとどうかというところがあったのが、いい奥行きがついた。ラノベというジャンルの伝統からくるキャラクターの宿命的な「記号的」な軽さ。フィクションのプリズムというハンデは、そのフィクションの中のフィクションとしての立場に当たる、子供時代のエピソードという位置において、ようやく重みを取り戻すことができるのだろうか。子供の頃の記憶というのは現在から切り離され再構成される物語であり、そんな子供の頃の「ピュア」な体験をどこかに抱えているということによって、フィクショナルなキャラクターの陰影が深まるという黄金律。それはフィクションにおいて子供時代の回想をピュアに書いてもいいという特権の根拠にもなっている。それだけに見鬼の能力の喪失が惜しまれ、しかし、甘美。その後の彼女達の話、いつか読ましてくれるのだろうか。あと、ヒナ(とアヤもか)の申し訳なさそうな目がそろそろはまってきた。
 8・9巻はまたアクションに比重が。またもや軽快な語りに導かれてさくさくと読んでしまった。もしコウが道中に加わらなかったら、二人の逃避行は寂しいものになっただろうな、どこかで一つ間違えば撫子もバッドエンドでそれなりにいい鬱話なっただろうな、みんなドッグデイズすれすれのところなんだろうな、とふと思う。もっといろいろ書きたいけど、またいつか読み返せるときがきたらだ。