恩田陸『夜のピクニック』

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

 亮子だってがんばって青春してるんだ。それをきれいな青春ばかり書きやがって。
 とまあそれはおいといて。時機を逸してしまったばかりにプルーストの小説は読んだことはないのだけれど、「意識の流れ」というのはこういうのを言うのでないかというな心地よい文章だった。もともと恩田氏の文章は、何かの動作と動作の隙間のようなタイミングで、身に覚えがあるような感覚や感慨をすっと差し挟むのがうまい。その瞬間、世界には調和があり、その流れを読めればうまくその瞬間の世界を手中にできるような気がする。そういう瞬間をがめつくかき集めていくのではなく、意識せずに自然に生きていければそれはとても豊かな生き方だなあと。
 夜通し歩く行事というのは、そういう気ままに移ろう意識や言葉を乗せる背景としては素晴らしい。この行事自体が未来や現実を前にしたひと時の隙間のようなもので、時間は中途半端にたっぷりあるので、好きなことをゆっくり考えたり話したりしていいわけで、そんな時間を過ごす機会があることといっしょに過ごす友達がいることが素晴らしい。女の子たちの若くてくつろいだ会話が心地いい。
 ほのぼのとしたフィクションの世界は清涼剤なのか、鎮痛剤なのか。美しいものを美しく、切ない感覚を切なく書く。その筆は的確だけどそこにメッセージはない。