Fate/stay night 〜凛編〜

 というか士郎編か。後半になればなるほどテーマ性が強くなるというか、ライターの書きたいことがかなりはっきりとしてきて、思索や主義主張のパートとチャンバラのパートが分かれてくるという、見方によってはプロレタリア文学のようなスケルトンボディなシナリオ。これもテーマである「一途さ」の現れとして受け止められたり。文学的技巧を凝らさず最後まで力業で押し切ってしまった。プロレタリア文学といえば、このシナリオを彩る剣と鉄のイメージ、限界を超えつづけるタフな人間のイメージがこれまた。士郎が革命に身をささげる労働者だというのは戯言だが、彼の鉄は革命ロシアの熱狂的な鉄とは違い、異物感の強い孤独な鉄というイメージ。これを偽善のモチーフに合わせて内省的に突き詰めていくというのがよかった(ソ連文学にもこういうのあったのかな)。弱いダメ人間にしてみれば、己の理想を信じるこれほどの強靭な意志というものには、嘆息を漏らしこそすれ決して軽蔑は出来ない。むしろ薬物か何かのように心地よい興奮をあおられる(薬物という発想がひ弱い文系人間だが)。Airや家族計画の家族愛もそうだが、あまりにも陳腐なはずのメッセージを、病的なくらい追い込んで、その突き抜けた先を見せてくれる。
 セイバーが共に同じ理想を目指して走ってくれるパートナーなら、このシナリオのように自分との戦い的に閉じた主人公には、凛のような性格は違うけどそんな自分に惚れてくれるサポーターがいいのだろう。エピローグは(一成に襲われそうでちょっと怖いのを除くと)またもやとてもよい読後感。声なしゲーの醍醐味といった感じで、分量と音楽のテンポが心地よい。
 それから最後のついでで申し訳ないけど、イリヤとメディアの無念に合掌。