明日の君と逢うために:小夜

 思わず感化されてジョギングした(三日坊主だと思うけど)。というのも小夜はプレイヤーである自分に近いところにいるから。表面的な設定では、孤高(独りぼっち)、口が悪いせいで人を遠ざける、不健康な食生活、目が悪いなど、健全な社会生活を送る気のない生き方を固持しているヒロインで、これがエロゲー的に金持ちで優等生の美人でなかったら、現実的には嫌われ者のニートまっしぐらのはずだ。彼女の口の悪さは可愛さではなく病的な自意識の現われになっていたはずだ。だから彼女を攻略するといっても、それは感覚的には所有への欲望ではなく(自分の分身を所有しても仕方ない)、彼女を応援するのに近いのかもしれない。
 アキレスと亀の競争の話があるが、小夜はある意味このゼノンのパラドックスに囚われている。アキレスが追いつけないのは運動の概念を認められないからで、世界を無限に分割することが出来るのならそれはおかしなことになる。無限と無秩序を憎み、秩序と可視性を尊ばねばならない。世界は静的な一つに統一されいなければならない。無限と統一の両極端を往復し、それに囚われるさまは、そのまま投げやりな小夜と完璧な小夜の分裂にだぶる。姉の帰還を待つ間に彼女は不要な外界をシャットアウトして一人だけの世界を作り上げてしまった。姉を批判しているようでいて、いつの間にか姉と同じことをしてしまっていた。世界が一つであり、ONEであるならば、「向こう」に行ったきり後を振り返る必要はない。目を閉ざし、目が悪いまま放っておいてけっこう。「向こう」へ行くことを否定するとは現状の自分をも否定することになるので、主人公にそれをやってもらうしかなかった。でも結局彼女は後追いの偽者でしかありえなかった。姉に会いたいという自分の思いに翻弄されていたに過ぎなかった。
 小夜の表象は直線でもある。こちらをまっすぐ見て、まっすぐ歩いてきて、まっすぐ毒舌を吐く。ついでに体型もスレンダーだという。甘えるときもまっすぐで、毒舌癖を曲げることもないが、甘えることへの躊躇はない。全く卑屈さがないので、彼女の引きこもり型な生き方まで正しいのではないかという錯覚を抱く。でもまっすぐこちらを見る彼女の視線はどこか遠くを見ているようなところがあって、かすかにこちらを不安にさせる。気のせいかもしれないけど、これは彼女の目が悪いからだ。ONEのみさき先輩とは多分違うのだろうけど、小夜の目もまたどこかうつろで孤独な何かを抱えているように思えて、彼女との掛け合いを楽しみながらも、いつも彼女の「向こう側」の存在もなんとなく感じている。それが消えるのは彼女が笑うときだ。