明日の君と逢うために:瑠璃子

 久々に(主に視覚的に)新しい感覚の作品。出たのは2007年らしいけど、いつの間にか世間のエロゲーは新しくなっていたようで、ゲームを進めながらいろいろ新鮮な感覚を味わった。まずキャラデザが新鮮。絵を形容する言葉をあまり知らないので何といったらいいのか分からないけど、バランスが取れていて明るくて可愛い。エロゲー的というよりはマンガ的というのだろうか、性的に媚びたフェティッシュで歪な絵というよりは可愛くて動きのある絵というか。まあこれもみんながみんなあまりに綺麗な丸顔で、大きな瞳の可愛らしく垂れたまなじりなので、意地の悪い見方をすればバッタみたいに見えなくもないけど、とにかく安定感があって可愛い。こういう子たちは性的な視線で眺めるというよりは、自分には入っていけない綺麗なフィクションの世界の妖精か何かのようなものとして、少し距離を置いて見てしまいがちになる(フィクションなのは当たり前だが)。大体舞台設定からしてあまりに綺麗な海辺の小島で、背景画の波が動いたりするような快適性を追及したようなリゾート感のある視覚的演出なので、その世界の綺麗さにちょっと戸惑う(そしてじきに慣れてくる)。その意味では冒頭の電車の車中のシーンの背景画は構図的にエヴァの車中の心象風景のシーンと重なって見えて、向かう先の世界の浮遊したような綺麗さとか綺麗な女の子たちとの距離感への暗示的な何かを意味しているようにも思われる。快適なのはシナリオの台詞回しにしてもそうで、掛け合いが何気に面白い。テンプレートの貧しい台詞から一歩踏み込んだ、相手が理解してくれることを期待した符丁的にひねった言葉の距離感が心地よい。進学校の頭の回転が早めの子たちという設定にも負けていないし、声優さんたちの演技もその辺の余裕を織り込んだ心地よいものになっていると思う。声優といえば、これは個別のヒロインの感想で書いたほうがいいのかもしれないけど、発声の仕方とか声質とか全体的に心地よいものが多い。明日香(安玖深音)や里佳(一色ヒカル)、小夜(祢乃照果)といったあたりもうまいけど、あさひ(井村屋ほのか)や舞(沢野みりか)はしゃべっているのを聞くだけで単純に惚れ惚れと聴き入ってしまう。ToHeart2あけるりなどと比べても一長一短はあるのだろうけど、自然な快適さという点ではこのゲームは吹っ切れている感じがする。自然すぎて入っていきにくいとことはあるのかもしれないけど。あと、これも何度も言われたことなのかもしれないが、この作品は立ち絵が大きい。Kanonかそれ以上の近さ。安定感があって見ていて心地よい絵が多いので近くてもそんなに気にならない。というか綺麗なので間近で見たくなる。ただし立ち絵のポーズに動きがあるものが多いので、あまり立ち絵をころころ変えるとせわしない感じになってうっとうしい。主人公が立ち上がったり誰かに視線を移したりすると、その度にいちいち視界が背景ごと上下左右に動くのもうっとうしい。男キャラにズームインとかされても嬉しくないし、立ち上がりながらずっと正面前方を見ているというも不自然。BGMも細かく変えすぎていたりして、その辺はさじ加減の按配でちょっと演出過剰になっているように思った。BGMは全体的に地味あるいはしょぼ目で、これは残念。一曲ダ・カーポ的な幻想の曲があったなあとかその程度の感想。
 はじめということもあってだらだらと全体的な感想を書いたけど、この快適さの感覚が瑠璃子のシナリオの特徴でもあるように思ったということもある。他のヒロインでもそうなのかもしれないけど、なんとも至れり尽くせりなヒロインであり、シナリオだった。まず、「おっぱいのおは奥ゆかしさのお」を体現する個人的に直球ヒロインなので、水が低いところへ流れるように自然にこの子のルートに進まざるを得ない。もう少しゆるいゲームだと、ヒロインが病気 → 愁嘆場 → 解決というパターンだけど、瑠璃子はよく出来た快適なヒロインなので、主人公と精一杯いちゃつきながらも、簡単に愁嘆場を演じたりせず、早々と別れを覚悟して受け入れる。主人公もいつまでも見苦しく取り乱したりせず覚悟を決める。なんだかあまりに物分りがよすぎるような気もするけど、考えてみたらこの子以外のルートに進んだらかなり鬼畜なんだけどこれ。それはともかく、そういうちょっと新鮮な違和感のおかげで緊張感を保ったままエンディングまで進めたけど、落とし所としてはあまりに平凡なのがやや残念。綺麗過ぎて気づかない間にハッピーエンドになっていたというか。あとはエッチシーンの絵の美しさには目を見張るものがあった。素通りできないほどにエロいのに額縁に入れられるほど綺麗で、この幻想的な楽園の感覚、しかも手の届きそうなほどの近さの感覚と、綺麗さの離れた距離の感覚が、瑠璃子ルートとこの作品そのものをよく表しているように感じた。いずれにせよ、通り一遍の面倒なシーン描写をするくらいならこんな風に抑えて描くという方針なら、今後も過剰な読み方をしていいということなのだろうから楽しめそうだ。でも本当にこれ、瑠璃子と幸せになってめでたしめでたしで終わりにしていいような気がする。それほど可愛いヒロインと手に入れた幸せなのに、それなのにゲームは続くというのはある意味理不尽だ。