西暦2236年 (75)

 人をちゃんと見ていないから、人をちゃんと好きになることができない。だから自分の悪いところ、悪い感情を大切な人にも見せられない―――。人間として未熟で青臭い悩みだが、耳が痛いところがある。そういう人間は、好きという気持ちの純粋さだけを問題にすれば、大抵は失敗してしまうのだろう。二人で同時に失敗できれば、なんかもう運命共同体になって、天使のいない12月みたいに奇跡的にうまくいくのかもしれないが、そうでなければ結局エンディングのない現実、エヴァ的「気持ち悪い」の後にも続く日常に回帰するしかない。でもその日常はそれ以前とは少し変わっていて、少しは息苦しくなくなっているし、またやり直せる可能性がないわけじゃない。だからハルも泣き笑いだった最後のシーンは、そんなに悪い終わり方じゃないと思う。
 いくらヒメ先輩との方がうまくいくといっても、僕はジャケット絵にもなっているハルの美しさに惹かれてしまったので、シオソでもいいからハルとの夢を見たい。アスカよりはレイだ。というか、別の宇宙に暗号を送ってきたハルでもやっぱりだめなのかな(往生際が悪い)。ヨツバ自身、ハルエンドで別の宇宙にいけたのは、ピアノの夢は叶わないと分かった上でピアノの楽しさを認めて自分と和解できたからであって、一度は答えを見つけているわけだ。そこからもう一度ということなら、シオソになるのか……。
 まあこうして恋愛をめぐる図式だけに還元すると単純な話になってしまうのだが、この作品の面白さはそれを時間や可能性といった抽象的な概念に乗せ、フラクタル図像や豊富な視覚的・文字的演出で魅せ、(音声がないおかげもあって)テンポのよいテキストで引き込んでいく、読み物としての楽しさにある。あとマスコの可愛さにある。何気にマスコ可愛いんだよなあ。自分も傷つかないですむし、いいことずくめじゃないのか。といっても恋愛の純粋さということならおとぎ話にでもしない限りマスコでは無理だし(自己愛になる)、そのことが分かっているからハルという不可能な対象に憧れるのかもしれない。